この記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入していたものの、退職や転職などで制度を離れることになった方や、脱退一時金の受け取りを検討している方に向けて書かれています。
企業型DCの脱退一時金とは何か、どんな条件で受け取れるのか、手続きや注意点について、初心者にもわかりやすく解説します。
将来の資産形成や老後資金に関わる大切な選択なので、正しい知識を身につけて賢く判断できるようサポートします。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?
会社が掛金を拠出する年金制度
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員のために掛金を拠出し、その資金を従業員自身が運用していく年金制度です。
企業が毎月一定額を積み立て、従業員はその資金を投資信託や定期預金などで運用します。
将来の老後資金を自分で作る仕組みであり、企業年金の一種として多くの企業で導入されています。
従業員にとっては、会社が資産形成をサポートしてくれるメリットがありますが、運用成績によって将来受け取れる金額が変動する点も特徴です。
自分で運用して将来の資産を作る仕組み
企業型DCの最大の特徴は、従業員自身が運用方法を選択し、資産を増やすチャンスがあることです。
投資信託や定期預金、保険商品など複数の運用商品から自分で選び、リスクやリターンを考えながら資産形成を行います。
運用の成果はそのまま将来の受取額に反映されるため、自己責任で資産を増やす意識が求められます。
また、原則として60歳まで引き出しができないため、長期的な資産形成に適した制度です。
脱退一時金とは?
企業型DCを途中でやめたときの受け取り制度
脱退一時金とは、企業型DCの加入者が退職や転職などで制度を途中でやめた場合に、一定の条件を満たすと積み立てた資産を一時金として受け取れる制度です。
原則として企業型DCの資産は60歳まで引き出せませんが、やむを得ない事情や特定の条件を満たす場合に限り、例外的に受け取ることが認められています。
この制度は、転職先に同じ制度がない場合や、資産残高が少額の場合などに利用されます。
退職金の代わりに受け取れるケース
脱退一時金は、退職金のようにまとまったお金を受け取れるケースがあります。
特に、企業型DCの加入期間が短く、転職先に同じ制度がない場合や、iDeCo(個人型確定拠出年金)への移換ができない場合に利用されます。
ただし、受け取れる金額や条件は厳格に定められており、誰でも簡単に受け取れるわけではありません。
退職金の一部として活用できるものの、将来の年金資産が減るリスクもあるため、慎重な判断が必要です。
受け取れるのはあくまで例外的な場合
脱退一時金は、企業型DCの資産を原則60歳まで引き出せないというルールの例外措置です。
受け取れるのは、特定の条件をすべて満たした場合に限られ、通常はiDeCoへの移換や他の企業型DCへの移換が優先されます。
そのため、脱退一時金の受給はあくまで最終手段と考え、他の選択肢がないか十分に確認することが大切です。
また、受給には手続きや税金などの注意点もあるため、事前にしっかりと情報収集を行いましょう。
脱退一時金を受け取れる条件
2022年5月1日の法改正により、脱退一時金の受給要件は緩和されました。以下の全ての条件を満たす必要があります。
- 60歳未満であること
- 企業型DCの加入者資格を喪失した日から6ヶ月以内に請求すること
- 企業型DCやiDeCoに加入できないこと
- 個人別管理資産額が25万円以下であること
※2022年5月1日の法改正により、以前の「加入期間が3年未満」という条件は撤廃されました。
条件 | 概要 |
---|---|
請求期間 | 加入者資格喪失から6ヶ月以内 |
他の制度 | 企業型DC・iDeCoに加入できない |
資産残高 | 25万円以下など少額 |
受け取れないケース
転職先に別の企業型DCがある
脱退一時金は、転職先に新たな企業型確定拠出年金(企業型DC)がある場合には受け取ることができません。
この場合、原則として前職の年金資産は転職先の企業型DCへ移換することが義務付けられています。
年金資産の継続的な運用を促すため、安易な現金化を防ぐ仕組みとなっています。
転職先の人事担当者や運営管理機関に、移換手続きについて早めに相談しましょう。
iDeCoへ移換できる環境がある
転職先に企業型DCがなくても、個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移換できる場合は、脱退一時金の受給はできません。
iDeCoは自営業者や転職者など幅広い人が利用できる制度であり、資産の継続運用が優先されます。
iDeCoへの移換手続きを怠ると、最悪の場合は自動的に国民年金基金連合会に資産が移され、手数料が発生することもあるため注意が必要です。
加入期間が長い場合
2022年5月の法改正により、加入期間の長さは脱退一時金の受給条件から外れました。ただし、iDeCo等への移換が可能な場合は、脱退一時金を受け取ることはできません。
受け取れない主なケース | 理由 |
---|---|
転職先に企業型DCがある | 資産移換が義務 |
iDeCoへ移換可能 | 資産の継続運用が優先 |
脱退一時金の金額の計算方法
掛金の累計額をもとに算定
脱退一時金の金額は、これまで拠出された掛金の累計額をもとに算定されます。
企業が拠出した金額と、加入者自身が追加で拠出した場合はその合計が基本となります。
ただし、規約や制度によっては一部の掛金が対象外となる場合もあるため、詳細は運営管理機関に確認しましょう。
運用損益が反映される場合もある
脱退一時金の金額には、運用による損益が反映されます。
運用成績が良ければ受取額が増える一方、損失が出ていれば減額されることもあります。
運用商品やタイミングによって金額が大きく変動するため、受給前に資産状況をしっかり確認しましょう。
受取額は条件により大きく異なる
脱退一時金の受取額は、拠出額、運用成績、資産残高などの条件によって大きく異なります。
また、税金や手数料が差し引かれる場合もあるため、実際に手元に残る金額は事前にシミュレーションしておくことが大切です。
不明点があれば、運営管理機関や企業の担当者に相談しましょう。
計算要素 | 内容 |
---|---|
掛金累計 | 企業・本人の拠出合計 |
運用損益 | 運用成績による増減 |
手数料・税金 | 差し引かれる場合あり |
手続きの流れ
必要書類の準備
脱退一時金を請求するには、まず必要書類を準備することが重要です。
主な書類は「脱退一時金裁定請求書」や本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)です。
企業や運営管理機関から送付される案内をよく確認し、不備がないように揃えましょう。
運営管理機関へ申請
必要書類が揃ったら、企業型DCの運営管理機関(加入者が運用を委託していた金融機関など)へ申請を行います。
申請方法は郵送が一般的ですが、機関によってはオンライン申請が可能な場合もあります。
申請内容に不備があると手続きが遅れるため、記入漏れや誤記に注意しましょう。
支給までにかかる期間
脱退一時金の支給までには、申請から1~2か月程度かかるのが一般的です。
書類の不備や確認事項がある場合は、さらに時間がかかることもあります。
早めに手続きを開始し、進捗状況をこまめに確認することが大切です。
- 必要書類の準備
- 運営管理機関への申請
- 支給まで1~2か月
脱退一時金を受け取る際の注意点
税金(所得税)がかかる
脱退一時金を受け取る際には、所得税が課税される点に注意が必要です。
一時金として受け取る場合は「退職所得」として扱われ、一定の控除が適用されるものの、受取額によっては税負担が発生します。
税率や控除額は個人の状況によって異なるため、事前にシミュレーションを行い、手取り額を把握しておくことが大切です。
また、確定申告が必要になる場合もあるため、受給後の手続きも忘れずに行いましょう。
将来の年金額が減るリスク
脱退一時金を受け取ると、その分だけ将来の年金資産が減少します。
本来であれば老後の生活資金として積み立てておくべき資産を、現金化してしまうことで、老後の資金不足につながるリスクがあります。
一時的な資金需要があっても、将来の生活設計を十分に考慮したうえで判断することが重要です。
安易な受給は避けるべきです。
受給は一度きりで再加入はできない
脱退一時金の受給は一度きりであり、再度同じ制度に加入しても、再び脱退一時金を受け取ることはできません。
このため、受給のタイミングや必要性をよく考え、将来の資産形成に与える影響も踏まえて判断することが大切です。
一度現金化してしまうと、再び積み立てるには新たな制度への加入が必要となり、条件も厳しくなります。
- 所得税がかかる
- 将来の年金資産が減る
- 受給は一度きり
まとめ:脱退一時金の賢い判断方法
まずは移換できるか確認する
脱退一時金の受給を検討する際は、まず他の年金制度(企業型DCやiDeCo)へ資産を移換できるかどうかを確認しましょう。
移換が可能であれば、資産を継続して運用でき、将来の年金資産を守ることができます。
移換手続きはやや複雑ですが、長期的な資産形成の観点からも優先すべき選択肢です。
やむを得ない場合のみ利用する
脱退一時金は、どうしても他の選択肢がない場合や、資産残高が少額で管理コストがかかる場合など、やむを得ないケースでのみ利用するのが賢明です。
一時的な資金需要があっても、将来の生活設計や老後資金への影響を十分に考慮しましょう。
安易な現金化は避けるべきです。
将来の老後資金も考えて選択する
脱退一時金の受給は、将来の老後資金に大きな影響を与える重要な選択です。
短期的なメリットだけでなく、長期的な資産形成や老後の生活設計も踏まえて判断しましょう。
不明点があれば、専門家や運営管理機関に相談することもおすすめです。
- 移換できるか必ず確認
- やむを得ない場合のみ受給
- 老後資金への影響を考慮