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四国初のコストコ出店がもたらす大きな転機
愛媛県と東温市が誘致を進めてきた会員制大型スーパー「コストコ」が、東温市北野田に出店することが正式に発表された。四国で初の出店であり、再来年度中のオープンが予定されている。
すでに四国内には約20万人のコストコ会員が存在するといわれており、松山圏だけではなく県境を越えて人が流れ込む可能性は極めて高い。行政が5年かけて誘致したこの大型プロジェクトの開業は、地域経済の流れを変える起点となるだろう。
経済波及効果と「滞在型」商圏へのシフト
コストコ出店によって最も期待されるのが経済波及効果だ。大型商業施設の来訪者は、県内の飲食店やガソリンスタンド、ドラッグストア、観光地にも消費を広げる。国道11号沿いという立地は交通導線として強く、日常の買い物や週末のレジャーに組み込みやすい。
これにより、愛媛は「通り過ぎられる地域」から「目的地として選ばれる地域」へシフトする可能性を持つ。交流人口の増加は地域のブランド価値にも影響し、行政が期待を寄せるのも当然といえる。

東温市・松山圏への実務的な影響
交通量の増加に伴い、周辺の出店計画やインフラ整備が加速する可能性がある。小売や飲食だけでなく、物流やサービス産業にも波及が期待され、地域の事業者にとっては新たな需要に応える体制整備が課題となる。
最大の衝撃は「時給1540円」がつくる採用競争
しかし、地元企業にとって最も大きな影響は別のところにある。コストコは約400人の雇用を計画しており、提示されている時給は全国一律で1540円だ。愛媛でこの水準は明らかに高い。
現在、多くの中小企業が時給1000円から1200円のレンジで採用に苦戦している現状を考えれば、応募者の目線は確実に大手へ傾く。今後は求人を出しても人が集まらない現象がさらに加速するだろう。採用が困難になるだけでなく、既存社員の流出リスクも高まる。
「人が集まらない」から「人が離れる」への段階変化
採用競争は給与水準の比較に加え、勤務条件の明確化や将来の見通しの提示が重要になる。条件面で劣後する企業は、採用コストが上がる一方で、定着率が下がるという二重の負荷に直面する。
人材市場は「理念」より「条件」で選ばれる時代へ
求職者が企業を選ぶ際、経営理念やビジョンより先に比較するのは条件だ。時給、待遇、安心感。この3点で劣る企業は選ばれなくなる。給与の単純競争は企業体力を消耗させ、続ければ続けるほど経営自体が苦しくなる。
人口減少が進む中で、中小企業が向き合うべき現実は「年収」ではなく「手取りの価値」を高めることだ。従業員が受け取る手取りと将来の安心感こそ、採用と定着の核心になっていく。
可処分所得という評価軸
同じ総支給額でも、税・社会保険の扱いや福利厚生の設計次第で可処分所得は変わる。従業員の「実感値」を上げる制度づくりが、採用と定着の決め手になる。
生き残る企業は「制度」で従業員の未来を提示する
ここで必要になるのが制度設計という発想だ。賃上げだけでは企業が疲弊するが、制度であれば小さなコストで大きな効果を生み出せる。その代表格が企業型確定拠出年金(企業型DC)である。企業にとっては積み立てた掛金が全額損金として認められ、従業員にとっては運用益が非課税で増える。
給与ではなく制度で手取りと将来を守る仕組みを用意できる企業は、採用にも強く、離職率も下がりやすい。大手の時給に勝てなくても、従業員から「ここで働く価値がある」と思われる状態をつくることができる。
企業型DCが評価される理由
企業負担は損金計上でき、従業員側は運用益非課税という二重のメリットがある。将来の受け取り設計も柔軟に考えられるため、従業員の長期的な安心感につながりやすい。
結論――コストコが来る前に企業型DCで“選ばれる会社”になるべきだ
今回のコストコ出店は地域にとって喜ばしい話題である一方で、中小企業には「いよいよ人材競争が本格化する」という明確なメッセージでもある。備えている企業と備えていない企業の差はわずか1年で目に見え、3年後には逆転不能な差になるだろう。
だからこそ、賃上げ競争に巻き込まれる前に企業型DCを導入し、従業員が手取りベースで将来に安心できる環境を用意してほしい。行動の早い企業が、これからの愛媛で本当に“選ばれる会社”になる。企業と人を守りたい経営者は、今すぐ制度設計に踏み出すべき時だ。







