確定給付企業年金(DB)は、将来の年金額があらかじめ企業によって保証されている制度ですが、転職や退職をした場合は、そのまま同じ形で続けることはできません。
なぜなら、この制度は「企業が運営主体」であり、社員が在籍していることを前提としているからです。
退職するとその企業の年金制度からは原則として脱退することになりますが、積み立てられた資産は消えるわけではなく、条件に応じていくつかの取り扱い方法があります。
まず、一定の勤続年数を超えていれば、それまでに積み立てた年金資産を将来の給付に反映させることができます。
たとえば、退職時に「脱退一時金」として受け取るケースがあります。
これは、企業年金制度を離れる際に、それまでの掛金に応じて支給される一時金で、税制上は退職所得として扱われ、退職所得控除が使える場合もあります。
ただし、一時金を受け取ってしまうと老後資金としての積立が途切れてしまうため、長期的な資産形成という意味では不利になることもあります。
次に、転職先に同じような企業年金制度がある場合は、通算制度を利用して年金資産を引き継ぐことが可能です。
この場合は「企業年金連合会」が中継役となり、転職前の企業で積み立てた年金資産を預かり、将来的に年金として支給してくれます。
これを「ポータビリティ(持ち運び)」と呼び、従業員が転職しても年金加入実績を維持できる仕組みです。
受給は原則として60歳以降となりますが、資産が失われることはありません。
一方で、転職先に企業年金制度がない場合や、本人が手続きを行わないまま放置すると、一定期間後に自動的に企業年金連合会へ移換されます。
その場合でも年金として将来受け取ることができますが、移換手続きが遅れると給付額が少なくなる可能性があります。
このように、確定給付年金は会社を辞めても積み立てた資産が消えるわけではなく、脱退一時金として受け取るか、企業年金連合会で保全するかのどちらかになります。
ただし、転職先で引き続き年金制度を活用できるかどうかは会社ごとの設計によります。
一方、確定拠出年金(DC)は自分名義の口座で運用するため、転職してもiDeCoなどに移換して運用を続けることができます。
確定給付年金は「会社が守る制度」、確定拠出年金は「自分で育てる制度」。
転職の多い時代には、どちらの制度を選ぶかが老後資金づくりの大きな鍵になります。