iDeCo(イデコ)は「個人型確定拠出年金」という名前のとおり、自分で運用する年金制度です。そのため、選ぶ商品によっては元本割れする可能性があります。つまり、どの商品を選ぶかによって安全性もリスクも大きく変わります。
iDeCoの運用商品は大きく分けて「元本確保型」と「元本変動型(投資型)」の2種類があります。元本確保型は定期預金や保険商品などが中心で、基本的には元本が保証されています。市場の値動きによって損をすることはほとんどなく、満期まで持てば掛金が減ることはありません。ただし、運用益はごくわずかで、長期間積み立ててもほとんど増えないのが実情です。
一方で、投資信託を使う「元本変動型」は、市場の値動きに応じて資産が増えたり減ったりします。株式や債券などを組み合わせた運用になるため、タイミングによっては評価額が掛金を下回る、つまり元本割れを起こすことがあります。
特に、始めて間もない時期や、リーマンショックのような急な相場変動の際には、一時的に損失が出ることも珍しくありません。
ただし、iDeCoは短期売買ではなく長期運用が前提の制度です。毎月一定額を積み立てる「ドルコスト平均法」により、価格が高いときは少なく、安いときは多く買う仕組みになります。そのため、長期的に続ければ購入価格が平均化され、リスクが平準化されていきます。実際、20年以上の長期運用では、過去のデータ上ほとんどの投資信託でプラスになっています。
また、iDeCoでは投資先を自分で選べるため、リスクの取り方を調整することも可能です。たとえば、若いうちは株式型の投資信託で積極的に運用し、50代になったら債券や定期預金など安全資産にスイッチする「ライフステージ運用」を取り入れれば、元本割れリスクを大きく下げることができます。
もう一つ重要なのは、元本割れのリスクがあっても、iDeCoには税制優遇があるということです。掛金の全額が所得控除となり、毎年の税負担を減らせるため、仮に運用成績が悪くても、節税分を含めてトータルではプラスになるケースが多いのです。
たとえば年収500万円の会社員が月23,000円を積み立てると、年間約55,000円の節税効果があります。この税金分の恩恵を考えると、運用で多少のマイナスが出ても、実質的には損をしにくい構造になっています。
つまり、iDeCoで元本割れするかどうかは「どんな商品を選ぶか」「どのくらいの期間運用するか」で決まります。短期的には価格が下がることもありますが、長期的にコツコツ積み立てることでリスクを抑えられ、節税メリットを加味すれば、実質的にはプラスになる可能性が高い制度です。
なお、経営者や役員の場合は、iDeCoよりも企業型確定拠出年金(DC)を導入する方がより有利です。企業型DCも同じように運用リスクがありますが、掛金を会社の経費として処理でき、節税効果はiDeCoよりも大きくなります。老後資金づくりと節税の両立を考えるなら、企業型DCの導入を検討するのがおすすめです。