特定退職金共済と中退共(中小企業退職金共済)は、どちらも中小企業が従業員の退職金を外部積立で準備できる仕組みですが、運営母体や制度設計に違いがあります。
まず、運営主体の違いです。特定退職金共済は民間の生命保険会社や共済団体が、国の認可を受けて運営する制度です。保険商品の一種であり、各会社ごとに制度の内容や返戻率などが異なります。
一方、中退共は独立行政法人「勤労者退職金共済機構」が国の制度として運営しており、全国一律の共済制度です。そのため、中退共は公共性が高く、制度内容も全国共通で分かりやすいのが特徴です。
次に、通算制度の違いです。特定退職金共済は、基本的に企業単位の契約であり、従業員が転職した場合には以前の積立をそのまま次の会社に持ち越すことはできません。会社が変われば新たな契約となり、積立期間は分断されます。これに対し、中退共は全国統一制度のため、転職先の会社が中退共に加入していれば、以前の積立期間を通算することができます。この「ポータビリティ(持ち運び性)」は、中退共の大きなメリットのひとつです。
掛金や制度設計の自由度も異なります。特定退職金共済は民間保険であるため、掛金の水準や商品設計にある程度の自由度があります。企業の業績や財務状況に合わせて掛金を変更できる柔軟さがありますが、その一方で、短期解約時には解約返戻金が掛金総額を下回るリスクもあります。中退共は掛金が月額5,000円から3万円まで16種類と決められており、全国一律のルールに従います。制度はシンプルですが、自由度は低めです。
税制上の扱いについては両者共通してメリットがあります。どちらの制度でも企業が拠出する掛金は全額損金算入でき、法人税の節税効果があります。また、従業員が退職時に受け取る共済金は「退職所得」として扱われ、退職所得控除や1/2課税の優遇が適用されます。したがって、税制面では両者に大きな差はありません。
信頼性と安定性では、中退共は国が運営しているため、公的制度としての信頼性が高く、企業や従業員にとって安心感があります。特定退職金共済は運営母体によって条件が異なるため、契約先によって利便性や解約返戻率に差が出る点はデメリットでもあり、選択の余地がある分、慎重に比較検討する必要があります。
まとめると、特定退職金共済は「民間が運営する柔軟性のある退職金制度」であり、中退共は「国が運営する全国統一型で通算できる制度」です。中退共はシンプルで公共性が高く通算性に優れる一方、特定退職金共済は自由度が高く企業の事情に合わせやすいですが、通算性に欠ける点が弱点です。企業の状況や従業員の働き方によって、どちらを選ぶかを判断するのが賢明です。