特定退職金共済とは、中小企業が従業員の退職金制度を容易に確立するために設けられた、社外積立型の共済制度です。企業が自ら退職金制度を設計し、長期的な資金管理を行う手間を省き、外部機関に運営を委託することで、簡便かつ確実に制度を導入できるのが特徴です。
この制度は、所得税法施行令に定められた「特定退職金共済団体」(主に各地の商工会議所や商工会連合会)が国の承認を得て運営しており、集めた掛金の運用は生命保険会社などに委託される形が一般的です。企業は毎月掛金を納付し、従業員が退職する際には、共済団体から直接、退職金が支払われます。
最大のメリットは、企業と従業員双方に適用される税制上の優遇です。企業が負担する掛金は、従業員一人あたり月額30,000円までなど、一定の範囲内で全額が損金(法人)または必要経費(個人事業主)に算入できるため、節税効果を得ながら計画的に退職金を準備できます。
また、この掛金は従業員の給与とはみなされないため、給与所得としての課税対象にはなりません。一方、従業員が退職時に受け取る共済金は「退職所得」となり、退職所得控除という優遇措置が適用されるため、税負担が大幅に軽減されます。
制度の柔軟性も中小企業にとって魅力です。加入や脱退が比較的自由で、掛金も一定の範囲内で増減できるため、経営状況に応じて負担を調整しやすい仕組みとなっています。また、商工会議所など公的な性格を持つ団体が運営を担うことで、企業が直接積立金を管理するよりも高い信頼性が確保されています。
ただし、注意点として、この制度はあくまで外部積立型であり、運用実績によって給付額が変動するリスクがあります。特に、加入後一定期間内での解約や退職の場合、給付額が払込掛金総額を下回る(元本割れする)可能性があるため、短期的な利用には向きません。また、退職金制度の選択肢としては、国の中小企業退職金共済(中退共)や企業型確定拠出年金(DC)などもあるため、中退共との重複加入の可否を含め、それぞれの制度を比較検討し、自社の状況に合ったものを選ぶことが重要です。