小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、ともに中小企業基盤整備機構が運営する国の制度です。
しかし、目的や加入対象、給付の仕組みがまったく異なります。それぞれを理解して活用することが、中小企業経営の安定や経営者の将来設計に大きな意味を持ちます。

まず 小規模企業共済 は「経営者自身のための退職金制度」です。加入できるのは、中小企業の経営者や役員、個人事業主、共同経営者など「事業を営む立場にある人」に限られます。掛金は月1,000円から7万円まで自由に設定でき、その全額が所得控除の対象となります。
廃業・退職・死亡などで共済金を受け取ることができ、受け取り時には退職所得控除や公的年金等控除が使えるため、税負担を抑えつつ老後資金を準備できる仕組みです。つまり、小規模企業共済は経営者個人の「退職金の積立」と「節税」を兼ね備えた制度といえます。
一方、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済) は「取引先の倒産リスクに備える制度」です。加入できるのは、資本金や従業員数が一定規模以下の中小企業であり、業種ごとに細かく基準が定められています。
掛金は月5,000円から20万円まで自由に設定でき、累計で最大800万円まで積み立てられます。この制度の最大の特徴は、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなった場合に、掛金の10倍(最高8,000万円)までを無担保・無保証で借り入れできる点です。
つまり、取引先の連鎖倒産から自社を守る「経営リスク対策」として機能します。また、掛金は損金算入できるため、法人税の節税効果も期待できます。
このように、両者は似た名前の共済ですが、役割はまったく違います。小規模企業共済は「経営者の退職金づくり」、経営セーフティ共済は「会社を連鎖倒産から守る資金繰り対策」と整理できます。前者は経営者個人の生活安定を、後者は会社存続の安定を目的とした制度であり、補完関係にあるといえるでしょう。
さらに両制度を併用することで、経営者自身と会社の双方を守ることができます。小規模企業共済で退職金を準備しつつ、経営セーフティ共済で万一の資金繰り対策を整えておけば、安心感は大きく高まります。
加えて、近年では企業型確定拠出年金(DC)も普及しており、老後資金形成の選択肢は広がっています。経営者にとっては「小規模企業共済=退職金」「経営セーフティ共済=リスク対策」「企業型DC=資産運用型の退職金制度」と位置づけ、それぞれを組み合わせて戦略的に利用するのが理想的です。







