建設業退職金共済制度(建退共)は、建設業で働く労働者の退職金を確保するために国が設けた仕組みです。現場で働いた日数に応じて事業主が「共済証紙」を購入し、労働者の共済手帳に貼付することで退職金を積み立てていきます。
転職や現場移動が多い建設業界に合わせて「会社を移っても退職金が通算できる」という特徴があり、長年にわたって多くの建設労働者を支えてきました。
参考:建設業退職金共済(独立行政法人 勤労者退職金共済機構)
では、建設業で自ら事業を営む「一人親方」は、この制度に加入できるのでしょうか。結論から言えば、一人親方本人は建退共に加入することはできません。
建退共の対象はあくまで「事業主に雇用されている労働者」であり、労働者が雇用契約の下で働いていることを前提に制度が成り立っています。一人親方は雇用される側ではなく、自らが事業主にあたるため、制度の加入対象外となっているのです。
ただし、一人親方のもとで働く労働者については、事業主として加入手続きを行えば共済手帳が交付され、退職金積立の対象となります。
この点は誤解されやすく、「自分も現場で汗を流しているのだから加入できるのでは」と考える一人親方も少なくありません。しかし制度設計上、一人親方本人の老後資金は建退共では準備できないため、別の方法を検討する必要があります。
その選択肢のひとつが、企業型確定拠出年金(企業型DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo)です。特に企業型DCは、法人を設立すれば一人社長でも加入が可能であり、掛金は全額損金算入、運用益も非課税、受け取り時にも税制優遇が受けられるため、老後資産形成に非常に有効です。
もし法人化していない場合でも、個人事業主であればiDeCoに加入することができ、自分の将来の退職金を積み立てる手段となります。
まとめると、建設業退職金共済制度は建設業界の労働者を対象とした制度であり、一人親方本人は加入できません。ただし、法人化して企業型DCを導入する、あるいは個人型のiDeCoを活用することで、自分自身の老後資産を守ることが可能です。
建退共で守れるのは「雇用されている労働者」、自分自身を守るには「DC」という考え方が現実的な選択肢となるでしょう。