建設業退職金共済制度(建退共)は、建設業の現場で働く労働者の退職金を確保するために国が設けた仕組みです。事業主は労働者の就労日数に応じて「共済証紙」を購入し、労働者の共済手帳に貼付することで退職金を積み立てていきます。このとき、証紙を購入した費用はどの勘定科目で処理するのが適切かという点が、実務上よく問われます。
参考:建設業退職金共済(独立行政法人 勤労者退職金共済機構)
結論から言えば、建退共証紙の購入費用は、一般的に「法定福利費」または「福利厚生費」で処理されます。建退共は労働者の退職金制度の一部として位置づけられており、労務費の一環として取り扱うのが妥当だからです。
特に、社会保険料や労働保険料と同じように強制力を持つ性格に近いと判断する場合には「法定福利費」として計上されることが多いです。一方で、退職金制度を広義の福利厚生のひとつと考え、「福利厚生費」で処理している会社もあります。どちらを選択するかは会社の会計方針や顧問税理士の指導に従うのが安全です。
会計処理の仕訳はシンプルで、証紙購入時には「法定福利費(または福利厚生費)/現金・預金」と記帳します。購入した掛金は労働者の退職金積立に直接充当されるため、購入時点で損金算入が認められます。
この点は事業主にとって大きなメリットであり、法人税や所得税の負担を軽減する効果があります。さらに、建退共の掛金は全額損金となるため、節税と従業員の福利厚生を同時に実現できる制度といえます。
ただし、建退共の仕組みにはアナログな面が残っています。証紙を購入して手帳に貼付する作業は手間がかかり、貼り忘れや記録漏れが発生すると、その分が労働者の退職金に反映されないリスクがあります。
労働者にとっては、将来の受給額に直結するため、会社側の管理体制が重要です。また、証紙の保管や購入の手間は経理担当者にとっても負担になりやすい部分です。
こうした管理の煩雑さを解消しつつ、より透明性と柔軟性を持った制度として注目されているのが企業型確定拠出年金(企業型DC)です。企業型DCでは、掛金は事業主から直接金融機関へ拠出され、従業員の個人口座に積み立てられます。
インターネットを通じて残高や運用状況を確認でき、証紙の購入や貼付といった作業は不要です。会計処理上も建退共と同じく掛金は「法定福利費」として扱われ、全額損金算入が可能です。さらに、掛金は非課税で積み立てられ、運用益も非課税、受け取り時にも税制優遇があるため、より効率的な資産形成につながります。
まとめると、建退共証紙の購入は「法定福利費」または「福利厚生費」で処理するのが一般的であり、全額損金算入できる点で節税効果があります。ただし、紙の証紙を扱う仕組みは管理の手間やリスクが伴うため、よりシンプルで将来性のある制度としては、企業型DCを導入する方が会社と従業員の双方にとってメリットが大きいといえるでしょう。