2007年に大きな社会問題となった「消えた年金問題」は、多くの国民にとって年金制度への信頼を揺るがす出来事でした。社会保険庁(現・日本年金機構)が管理していた年金記録に膨大な不備があり、本来受け取れるはずの年金が確認できない「宙に浮いた記録」が約5000万件にものぼると公表されたのです。
記録の誤りや重複、基礎年金番号への統合不足など、ずさんな管理によって、将来の生活資金に不安を抱えざるを得ない人が続出しました。政府は突合作業や年金特別便の送付などを急ぎましたが、完全解決には至らず、制度そのものへの不信感は根強く残りました。
この出来事から私たちが学ぶべきことは、「年金を国や制度だけに頼るのは危険だ」という点です。もちろん公的年金は老後生活の基盤であり、基本的な収入を支える仕組みです。しかし、少子高齢化が進む日本において、将来も今と同じように支給され続けるか、制度がどこまで持続できるのかは誰にも断言できません。
さらに、記録管理の不備が象徴するように、制度の運営側に不完全さがある以上、将来の安心を完全に委ねることは難しいのが現実です。
だからこそ、自分自身で老後資産を守る仕組みを持つことが大切になります。その有効な手段のひとつが「企業型確定拠出年金(DC)」です。DCでは会社や従業員が拠出した掛金を自分で運用し、将来の受け取り額が決まります。
掛金は全額非課税で積み立てられ、運用益も非課税、さらに受け取るときにも税制優遇があるため、効率よく資産形成が可能です。公的年金が揺らいでも、DCで積み立てた資産は自分の名義で確実に管理され、60歳以降の生活資金として受け取れます。
「消えた年金問題」が示したのは、誰かに任せきりにしてはいけないという教訓です。自分の年金は、自分でコントロールできる仕組みを併用して守る必要があります。
その意味で、企業型DCは「会社が制度として支援しながら、最終的には自分自身が積み上げていける」理想的な制度と言えるでしょう。老後の安心を確実なものにするために、今から準備を始めることが何より重要なのです。