小規模企業共済は、中小企業の社長や役員、個人事業主のために国が用意した“経営者の退職金制度”であり、掛金が全額所得控除になるなど大きなメリットがあります。
しかし、実際に利用する際にはいくつかの落とし穴があり、注意しなければ思わぬ不利益を被ることがあります。
第一の落とし穴は、短期解約による元本割れです。小規模企業共済は長期利用を前提に設計されており、掛金を20年未満で任意解約すると、受け取れる解約手当金は掛金総額を下回ることがあります。特に12か月未満で解約した場合は、掛金が一切戻らないという規定もあります。したがって、数年でやめる予定の人にとっては不向きな制度です。
第二は、資金を自由に引き出せない点です。iDeCoと同じように「老後資金のための積立」という性格が強いため、原則として退職・廃業・死亡などの事由がなければ共済金を自由に受け取ることはできません。資金繰りが必要なときには「貸付制度」を利用できますが、あくまで借入であり返済義務が伴うため、預金のような流動性はありません。
第三の落とし穴は、インフレリスクです。小規模企業共済は安定した制度ですが、基本的には掛金を積み立てて受け取る仕組みのため、物価上昇が続くと将来の実質的な価値は目減りしてしまいます。特に近年のように物価が上がり続ける局面では、掛金がそのまま据え置かれるため「老後に受け取ったときに購買力が低下している」というリスクがあります。
第四に、途中での減額や休止の影響です。掛金は1,000円~7万円の範囲で設定できますが、減額や休止を繰り返すと将来の共済金も比例して少なくなります。また、資金繰りの都合で掛金を減額した場合、制度を最大限活用できないまま老後を迎えてしまう可能性があります。
最後に、受け取り方による税務上の注意点です。一括受け取りの場合は退職所得控除が使えて有利ですが、分割で受け取る場合は公的年金等控除の対象となり、他の年金収入と合算されるため課税が増える場合があります。どのように受け取るかによって手取り額が変わるため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。