中小企業退職金共済制度(通称:中退共)は、国(独立行政法人 勤労者退職金共済機構)が運営している、中小企業向けの公的な退職金制度です。中小企業の多くは大企業のように独自の退職金制度を設けるのが難しいため、その支援を目的として国が制度を用意しています。
仕組みとしては、事業主が従業員ごとに掛金を毎月拠出し、その積み立てを従業員の退職金として支払う というものです。掛金は会社が全額負担し、従業員には一切負担がありません。加入対象は正社員だけでなく、パート・アルバイトなどの短時間労働者でも、一定の条件を満たせば加入することができます。
掛金は月額5,000円から30,000円の範囲で設定でき、5,000円から10,000円までは1,000円刻み、10,000円を超える部分は2,000円刻みで選ぶことが可能です。事業主は従業員の勤続年数や役職に応じて掛金を変更でき、会社の経営状況に合わせて増額や減額も行えます。
中退共の大きな特徴は、国が運営していることによる安心感です。中小企業の経営が傾いたとしても、退職金の支払いは勤労者退職金共済機構から行われるため、従業員が退職金を受け取れなくなる心配はありません。退職金は従業員が退職したときに直接本人へ支給され、企業が退職金の原資を準備する手間を省けるのもメリットです。
また、事業主にとっても税制上の優遇があります。掛金は法人であれば全額を損金に算入でき、個人事業主であれば必要経費に計上できます。つまり、会社の利益を圧縮しながら従業員の退職金を準備できるため、節税効果を得つつ福利厚生の充実を図れるのです。
一方でデメリットもあります。短期間で退職した従業員には退職金が少なかったり、加入から12か月未満で退職した場合には退職金が支払われないことがあります。
また、予定利率が低いため、積極的な資産形成を目的とする制度ではなく、あくまで安定的に退職金を用意するための仕組みと理解する必要があります。さらに、法人の代表者や役員、個人事業主本人は原則として加入できないため、経営者自身の退職金準備には別の制度を利用する必要があります。
結論として、中小企業退職金共済とは、中小企業の従業員に退職金を安定的に準備するために国が設けた共済制度 です。従業員にとっては安心して働ける環境を提供し、事業主にとっては税制メリットを享受しながら退職金制度を簡単に導入できる仕組みであると言えます。