企業型確定拠出年金(企業型DC)は、在職中は会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用していく退職金制度の一種です。しかし退職した後に「もうやめたい」「続けなくてもいいのか」と疑問に思う人も少なくありません。
結論から言えば、退職後に完全に「辞める」という選択肢は基本的に存在しません。積み立てた資産は自分名義の老後資金であるため、必ず何らかの形で管理・運用を続ける必要があるからです。
退職後にまず考えるのは、その資産をどこに移すかということです。転職先に企業型DCの制度があり、資産の受け入れが可能であれば、そのまま新しい勤務先の制度へ移換して続けることができます。
もし転職先に企業型DCがなければ、原則として個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移換することになります。iDeCoに移せば、自分で掛金を出すか、あるいは掛金なしで資産を運用だけ続けることも可能です。
「辞めたい」と感じる人が多いのは、手続きや運用の継続に負担を感じる場合です。しかし注意が必要なのは、手続きをせずに放置してしまうと、資産は6ヶ月後に国民年金基金連合会に自動的に移される点です。この「自動移換」になると運用は止まり、毎月の手数料だけが引かれて資産が目減りしていきます。
さらにその期間は加入期間としてカウントされないため、将来の受け取り条件にも不利に働きます。したがって「辞めたい」と思っても、放置してしまうのは最も避けるべき対応です。
また、退職時点で60歳以上であり、かつ加入期間が通算で10年以上あれば、すぐに年金や一時金として受け取る手続きに進むことも可能です。この場合は「辞める」というよりも「受け取り開始」という扱いになります。
つまり、企業型DCは退職後に「もうやめます」と解約して現金化する制度ではなく、必ず移換か受け取り開始という形をとる仕組みになっています。
結局のところ、退職後に「辞めたい」と思っても、そのままやめることはできず、正しい移換や受け取りの手続きを踏むことが必要です。
制度の本質は老後資金を確実に確保するための仕組みですから、短期的な事情で解約ができない代わりに、長期的には税制優遇や資産形成の効果を享受できるという特徴があります。退職後には必ず次の受け皿を決め、資産を守りながら活用していくことが大切です。