この記事は、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している、または導入を検討している会社員や経営者の方に向けて書かれています。
「企業型確定拠出年金を利用すると厚生年金が減るのでは?」という疑問や不安を持つ方が多い中、制度の仕組みや本当の影響について、誤解されやすいポイントをわかりやすく解説します。
選択制DCや企業拠出型DCの違い、将来の年金額への影響、従業員・経営者が押さえるべきポイントまで、実際の制度設計や選択時に役立つ情報をまとめています。
目次
企業型確定拠出年金と厚生年金の関係
企業型DCは私的年金、厚生年金は公的年金
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員自身が運用する私的年金制度です。
一方、厚生年金は国が運営する公的年金制度で、会社員や公務員が加入します。
この2つは性質や目的が異なり、企業型DCは老後資産形成のための「上乗せ年金」として位置づけられています。
厚生年金は法律で定められた強制加入の制度であり、企業型DCは企業ごとに導入の有無や内容が異なります。
そのため、両者は根本的に異なる年金制度であることを理解しておきましょう。
- 企業型DC:企業が掛金を拠出し従業員が運用
- 厚生年金:国が運営する公的年金
仕組みが異なるため直接は連動しない
企業型DCと厚生年金は、制度の仕組みや運用方法が異なるため、原則として直接的に連動することはありません。
企業型DCの掛金や運用益が厚生年金の受給額に影響を与えることはなく、逆に厚生年金の加入状況が企業型DCの運用に影響することもありません。
ただし、後述する「選択制DC」など一部のケースでは、間接的に影響が生じる場合があります。
基本的には、両者は独立した年金制度として考えることができます。
- 企業型DCと厚生年金は独立した制度
- 原則として受給額や運用に直接の影響はない
導入しても厚生年金が減ることはない
多くの方が心配する「企業型確定拠出年金を導入すると厚生年金が減るのでは?」という疑問ですが、結論から言えば、企業型DCを導入しただけで厚生年金が減ることはありません。
企業が従業員のために掛金を拠出する「企業拠出型DC」や、従業員が自分の資産から拠出するiDeCo(個人型DC)では、厚生年金の計算に影響はありません。
ただし、給与の一部を掛金に振り替える「選択制DC」では、標準報酬月額が下がることで将来の厚生年金額に影響が出る場合があります。
この点については次の見出しで詳しく解説します。
| 年金制度 | 厚生年金への影響 |
|---|---|
| 企業拠出型DC | 影響なし |
| 選択制DC | 影響あり(場合による) |
| iDeCo | 影響なし |
なぜ「厚生年金が減る」と思われるのか
給与の一部を掛金に振り替える選択制DCの場合
「厚生年金が減る」と誤解されやすい最大の理由は、選択制DC(選択制確定拠出年金)の仕組みにあります。
選択制DCでは、従業員が本来受け取るはずの給与の一部を、企業型DCの掛金として拠出することができます。
この場合、給与の総額が下がるため、社会保険料の計算に使われる標準報酬月額も下がることになります。
その結果、将来受け取る厚生年金の額にも影響が出る可能性があるのです。
この仕組みが「厚生年金が減る」と言われる背景となっています。
- 選択制DCは給与の一部を掛金に振り替える
- 標準報酬月額が下がる
標準報酬月額が下がると社会保険料も下がる
選択制DCを利用して給与の一部を掛金に回すと、標準報酬月額が下がります。
標準報酬月額は、健康保険や厚生年金などの社会保険料の計算基準となる金額です。
この金額が下がることで、毎月の社会保険料や所得税が軽減されるメリットがあります。
しかし、社会保険料が下がるということは、将来の年金給付額の計算基礎も下がることを意味します。
短期的には手取りが増える一方、長期的には年金額が減るリスクがあるため、注意が必要です。
- 標準報酬月額が下がると社会保険料も減る
- 手取りは増えるが将来の年金額に影響
結果的に将来の厚生年金額も小さくなる可能性
選択制DCを利用して給与の一部を掛金に回すと、標準報酬月額が下がるため、将来受け取る厚生年金の年金額も減少する可能性があります。
厚生年金の受給額は、現役時代の標準報酬月額と加入期間によって決まるため、給与を減額して掛金に回す期間が長いほど、年金額への影響も大きくなります。
このため、選択制DCを利用する際は、短期的な手取り増加と長期的な年金減少リスクのバランスをよく考えることが重要です。
| 選択制DC利用前 | 選択制DC利用後 |
|---|---|
| 標準報酬月額:30万円 | 標準報酬月額:28万円 |
| 厚生年金額:高い | 厚生年金額:やや減少 |
選択制DCと厚生年金の関係
給与を減額し掛金に回す仕組み
選択制DCは、従業員が自分の給与の一部を企業型DCの掛金として拠出する仕組みです。
この場合、給与明細上は「給与減額」となり、その分が企業型DCの掛金として積み立てられます。
給与が減ることで、社会保険料や所得税の負担が軽減される一方、将来の厚生年金の計算基礎となる標準報酬月額も下がるため、年金額が減るリスクが生じます。
この仕組みを正しく理解し、自分にとって最適な選択をすることが大切です。
- 給与の一部を掛金に振り替える
- 社会保険料・所得税が軽減される
社会保険料・所得税が軽減されるメリット
選択制DCの大きなメリットは、給与の一部を掛金に回すことで、社会保険料や所得税の負担が軽減される点です。
掛金分は非課税扱いとなるため、手取り収入が増える効果があります。
特に、所得税率が高い方や社会保険料の負担が大きい方にとっては、節税効果が実感しやすい制度です。
ただし、将来の年金額が減るリスクもあるため、短期的なメリットと長期的なデメリットを比較して判断することが重要です。
- 掛金分は非課税
- 手取り収入が増える
ただし厚生年金の将来給付額は減少リスク
選択制DCを利用すると、給与が減額されるため、標準報酬月額が下がり、将来の厚生年金の給付額が減少するリスクがあります。
このリスクは、掛金に回す金額や期間によって異なりますが、長期間にわたって多額の給与を掛金に回す場合、年金額への影響も大きくなります。
選択制DCを選ぶ際は、老後の生活設計や資産形成のバランスを考慮し、慎重に判断することが求められます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 社会保険料・所得税の軽減 | 将来の厚生年金額が減るリスク |
企業拠出型DCと厚生年金の関係
会社が掛金を追加負担する仕組み
企業拠出型DCは、会社が従業員の給与とは別に掛金を拠出する仕組みです。
この場合、従業員の給与や標準報酬月額には一切影響がありません。
会社が追加で負担するため、従業員の社会保険料や所得税の計算基礎も変わらず、将来の厚生年金額にも影響はありません。
従業員にとっては、給与が減ることなく老後資産を増やせるメリットがあり、企業にとっても福利厚生の充実や人材確保の観点から有効な制度です。
- 会社が給与とは別に掛金を拠出
- 従業員の給与や年金額に影響なし
給与に影響しないので厚生年金額は減らない
企業拠出型DCは、従業員の給与に影響を与えないため、標準報酬月額も変わりません。
そのため、将来受け取る厚生年金の額が減ることはありません。
従業員は安心して老後資産を積み立てることができ、企業も従業員の不安を和らげることができます。
この点は、選択制DCと大きく異なるポイントです。
- 標準報酬月額は変わらない
- 厚生年金額も減らない
退職金制度の代替・拡充として導入できる
企業拠出型DCは、従来の退職金制度の代替や拡充として導入されるケースが増えています。
会社が掛金を拠出することで、従業員の老後資産形成をサポートできるだけでなく、企業側も退職給付債務の管理がしやすくなるメリットがあります。
また、従業員にとっても、退職金と同様に老後の資産形成ができるため、安心感が高まります。
- 退職金制度の代替や拡充に活用可能
- 企業・従業員双方にメリット
従業員が押さえるべきポイント
自分の会社のDCは選択制か、追加拠出型か
まず、自分の会社で導入されている企業型DCが「選択制DC」なのか「企業拠出型DC」なのかを確認しましょう。
選択制DCの場合は、給与の一部を掛金に回すため、将来の厚生年金額に影響が出る可能性があります。
一方、企業拠出型DCであれば、給与や年金額に影響はありません。
自分の老後資産形成や年金額にどのような影響があるのか、制度の違いをしっかり理解することが大切です。
- 自社のDC制度の種類を確認
- 将来の年金額への影響を把握
将来の厚生年金見込み額への影響を理解する
選択制DCを利用する場合、標準報酬月額が下がることで将来の厚生年金額が減る可能性があります。
どの程度の影響があるのか、会社の人事部や年金事務所などでシミュレーションを行い、具体的な数字を確認しておくと安心です。
短期的な手取り増加と長期的な年金減少リスクを比較し、自分にとって最適な選択をしましょう。
- 年金見込み額のシミュレーションを活用
- 短期と長期のバランスを考慮
老後資産全体でバランスを考えることが重要
企業型DCだけでなく、厚生年金やiDeCo、NISAなど、老後資産形成の手段は複数あります。
それぞれの制度の特徴やメリット・デメリットを理解し、老後資産全体のバランスを考えることが重要です。
短期的な節税効果だけでなく、将来の生活設計や資産形成の目標に合わせて、最適な選択を心がけましょう。
- 複数の資産形成手段を活用
- 老後資産全体のバランスを重視
経営者にとってのポイント
制度設計次第で従業員の不安を左右する
企業型確定拠出年金の導入や運用にあたっては、制度設計が従業員の将来不安に大きく影響します。
特に選択制DCの場合、従業員の厚生年金額が減るリスクがあるため、制度の内容やメリット・デメリットを丁寧に説明することが重要です。
従業員が安心して制度を利用できるよう、情報提供や相談体制の整備も求められます。
経営者は、従業員の将来設計をサポートする立場として、制度設計の透明性と納得感を重視しましょう。
- 制度設計の透明性が重要
- 従業員への丁寧な説明が必要
採用・定着のためには「厚生年金は減らない」と説明が必要
企業拠出型DCを導入する場合は、従業員の厚生年金額が減らないことを明確に伝えることが、採用や人材定着の観点からも重要です。
一方、選択制DCの場合は、将来の年金額に影響が出る可能性があるため、そのリスクをしっかり説明し、従業員が納得した上で選択できるようにしましょう。
誤解や不安を招かないためにも、制度の違いを分かりやすく伝えることが経営者の責任です。
- 企業拠出型DCは年金額に影響なしと明示
- 選択制DCはリスク説明を徹底
福利厚生と社会保険料のバランスを見直すチャンス
企業型DCの導入は、福利厚生の充実や社会保険料負担の見直しを行う良い機会です。
従業員の老後資産形成を支援しつつ、企業としてのコストバランスも考慮することが求められます。
また、従業員の多様なニーズに応えるため、他の福利厚生制度や資産形成支援策と組み合わせて、総合的な制度設計を検討しましょう。
- 福利厚生の見直しの好機
- 社会保険料負担とのバランスを考慮
まとめ:企業型DCで厚生年金が減るのは一部のケース
選択制DCは将来の年金額に影響する可能性あり
企業型確定拠出年金のうち、選択制DCを利用して給与の一部を掛金に回す場合、標準報酬月額が下がることで将来の厚生年金額が減る可能性があります。
短期的な手取り増加と長期的な年金減少リスクをよく比較し、自分に合った選択をすることが大切です。
企業拠出型DCなら厚生年金額は変わらない
一方、企業拠出型DCの場合は、会社が給与とは別に掛金を拠出するため、従業員の給与や標準報酬月額に影響はありません。
そのため、将来の厚生年金額が減る心配はなく、安心して老後資産を積み立てることができます。
経営者は制度設計と説明責任を果たすことが重要
経営者は、企業型DCの制度設計や導入時の説明責任をしっかり果たすことが求められます。
従業員が安心して制度を利用できるよう、メリット・デメリットを分かりやすく伝え、将来の資産形成をサポートしましょう。
| 制度タイプ | 厚生年金への影響 |
|---|---|
| 選択制DC | 減る可能性あり |
| 企業拠出型DC | 影響なし |







