本記事は、中小企業の経営者や人事担当者の方を対象に、退職金制度として注目される「iDeCo+(イデコプラス)」と「企業型確定拠出年金(DC)」の違いを徹底解説します。
それぞれの制度の特徴や導入条件、メリット・デメリットを比較し、自社に最適な退職金制度の選び方をわかりやすくご紹介します。
福利厚生の充実や人材確保を目指す中小企業の方は、ぜひ参考にしてください。
iDeCo+(イデコプラス)とは
iDeCo+(イデコプラス)は、中小企業の従業員が個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している場合に、企業が従業員の掛金に上乗せして拠出できる制度です。
従業員の老後資金形成を企業がサポートできる新しい仕組みとして、近年注目を集めています。
従来の退職金制度や企業型確定拠出年金(DC)と比べて、導入や運用の手間が少なく、コストも抑えられる点が特徴です。
特に中小企業にとっては、福利厚生の強化や人材確保の観点から導入しやすい制度となっています。
中小事業主掛金納付制度の概要
iDeCo+は「中小事業主掛金納付制度」とも呼ばれ、企業が従業員のiDeCo掛金に対して追加で拠出できる仕組みです。
この制度は、従業員の自助努力による資産形成を企業が後押しすることを目的としています。
企業が拠出する掛金は、従業員ごとに設定でき、企業の財務状況や方針に合わせて柔軟に運用可能です。
また、企業が拠出した掛金は損金算入できるため、税制面でもメリットがあります。
従業員の老後資金形成を支援しつつ、企業の負担も抑えられる点が大きな特徴です。
従業員のiDeCoに企業が掛金を上乗せできる仕組み
iDeCo+では、従業員が自分で拠出しているiDeCoの掛金に対し、企業がさらに上乗せして掛金を拠出できます。
この上乗せ分は、従業員本人の掛金とは別枠で管理され、従業員のiDeCo口座に直接反映されます。
企業が拠出することで、従業員の資産形成がより加速し、老後の安心につながります。
また、企業側も福利厚生の一環としてアピールできるため、採用や人材定着にも効果的です。
従業員と企業の双方にメリットがある仕組みとなっています。
対象は従業員100人以下の中小企業
iDeCo+の対象となるのは、従業員数が100人以下の中小企業です。
この制度は、特に大企業に比べて福利厚生制度の整備が難しい中小企業向けに設計されています。
従業員数が100人を超える企業や、すでに企業型確定拠出年金(DC)や確定給付年金を導入している企業は利用できません。
そのため、比較的小規模な企業が、低コストかつ簡単に退職金制度を導入できる選択肢として注目されています。
自社の規模や現状の福利厚生制度を確認し、導入可否を検討しましょう。
iDeCo+の仕組み
従業員本人のiDeCo掛金に加えて企業が拠出
iDeCo+の最大の特徴は、従業員本人が拠出するiDeCo掛金に加えて、企業が追加で掛金を拠出できる点です。
従業員が自分で積み立てるだけでなく、企業からのサポートも受けられるため、老後資金の形成がより効率的に進みます。
企業が拠出する掛金は、従業員ごとに金額を設定できるため、柔軟な運用が可能です。
また、企業拠出分も従業員のiDeCo口座に直接反映され、運用益も非課税となります。
この仕組みにより、従業員のモチベーション向上や企業のイメージアップにもつながります。
企業拠出分は最大月額2万円まで
iDeCo+で企業が拠出できる掛金は、従業員1人あたり月額最大2万円までと定められています。
この上限は、企業の財務状況や従業員の希望に応じて設定可能です。
従業員本人のiDeCo掛金と合わせて、より多くの資産を積み立てることができます。
ただし、企業拠出分と従業員本人の掛金の合計が、iDeCoの拠出限度額を超えないよう注意が必要です。
上限を超えた場合は、超過分が拠出できなくなるため、事前にしっかりと確認しましょう。
国民年金基金連合会を通じて掛金を納付
iDeCo+の掛金は、企業が国民年金基金連合会を通じて納付します。
企業は、従業員ごとに拠出額を決定し、毎月まとめて国民年金基金連合会に納付する流れとなります。
この仕組みにより、企業側の事務負担が軽減され、スムーズな運用が可能です。
また、国民年金基金連合会が掛金の管理や運用を行うため、企業は複雑な運用業務を担う必要がありません。
導入や運用の手間を最小限に抑えつつ、従業員の資産形成をサポートできる点が大きな魅力です。
iDeCo+を導入できる企業の条件
従業員数100人以下であること
iDeCo+を導入できる企業は、従業員数が100人以下であることが必須条件です。
この基準は、正社員だけでなく、パートやアルバイトなども含めた全従業員の合計人数で判断されます。
従業員数が101人以上になると、iDeCo+の利用資格を失うため、企業規模の変化には注意が必要です。
また、グループ会社や関連会社がある場合は、合算して判断されるケースもあるため、事前に確認しておくことが大切です。
この条件を満たすことで、中小企業でも手軽に退職金制度を導入できるメリットがあります。
確定給付年金や企業型DCを導入していないこと
iDeCo+は、すでに確定給付年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)を導入していない企業のみが利用できます。
これらの制度を導入している場合、iDeCo+の併用は認められていません。
そのため、既存の退職金制度がない、または廃止を検討している中小企業にとって、iDeCo+は新たな選択肢となります。
導入前には、現在の福利厚生制度や年金制度の有無を必ず確認しましょう。
制度の重複を避けることで、法令違反やトラブルを未然に防ぐことができます。
就業規則に退職金制度として定める必要がある
iDeCo+を導入する際は、就業規則や退職金規程に「iDeCo+を退職金制度として導入する」旨を明記する必要があります。
これにより、従業員への説明責任を果たし、制度の透明性を確保できます。
また、就業規則の改定には、労働組合や従業員代表との協議や同意が必要な場合もあるため、事前に手続きを確認しましょう。
制度導入後は、従業員への周知や説明会の実施も重要です。
しっかりとしたルール作りと運用体制を整えることで、トラブルを防ぎ、従業員の信頼を得ることができます。
企業型確定拠出年金(DC)との違い
企業型DCは企業が制度全体を設計・運営する
企業型確定拠出年金(DC)は、企業が制度全体を設計し、運営する年金制度です。
掛金の拠出額や運用商品の選定、加入対象者の範囲など、企業ごとに柔軟にカスタマイズできます。
また、企業が掛金を全額負担するケースや、従業員と折半するケースなど、運用方法も多様です。
一方で、制度設計や運営に関する事務負担やコストが大きくなる傾向があります。
大企業や一定規模以上の企業に適した制度と言えるでしょう。
iDeCo+はiDeCoに企業が掛金を上乗せする仕組み
iDeCo+は、従業員が個人で加入するiDeCoに対して、企業が掛金を上乗せするシンプルな仕組みです。
企業型DCのように制度全体を設計・運営する必要がなく、導入や運用の手間が大幅に軽減されます。
企業は、従業員ごとに拠出額を設定し、国民年金基金連合会を通じて掛金を納付するだけで済みます。
そのため、特に中小企業にとっては、手軽に導入できる退職金制度として人気が高まっています。
制度のシンプルさが最大の魅力です。
事務負担・導入コストはiDeCo+の方が小さい
企業型DCは、制度設計や運用、従業員への説明、管理業務など、事務負担や導入コストが大きくなりがちです。
一方、iDeCo+は、既存のiDeCo制度を活用するため、企業側の事務作業やコストが最小限に抑えられます。
導入手続きもシンプルで、専門的な知識や大規模なシステム投資も不要です。
中小企業が無理なく福利厚生を充実させたい場合、iDeCo+は非常に有効な選択肢となります。
コストパフォーマンスの高さが大きなメリットです。
項目 | iDeCo+ | 企業型DC |
---|---|---|
導入対象 | 従業員100人以下 | 規模制限なし |
制度設計 | 不要(iDeCo活用) | 企業ごとに設計 |
事務負担 | 小さい | 大きい |
導入コスト | 低い | 高い |
iDeCo+と企業型DCのメリット比較(企業側)
iDeCo+は小規模でも導入しやすい
iDeCo+は、従業員100人以下の中小企業でも手軽に導入できる点が大きな魅力です。
制度設計や複雑な運用管理が不要で、国民年金基金連合会を通じて掛金を納付するだけで済みます。
また、導入コストや事務負担も最小限に抑えられるため、福利厚生の充実を目指す小規模企業にとって非常に有効な選択肢です。
従業員の資産形成をサポートしつつ、企業の負担も軽減できるため、導入のハードルが低いのが特徴です。
企業型DCは掛金水準や商品ラインナップを柔軟に設計できる
企業型DCは、企業が掛金の水準や運用商品のラインナップを自由に設計できる柔軟性が魅力です。
従業員のニーズや企業の方針に合わせて、より多様な運用商品を提供したり、掛金の負担割合を調整したりすることが可能です。
また、企業独自の福利厚生制度としてアピールしやすく、従業員満足度の向上や優秀な人材の確保にもつながります。
一定規模以上の企業や、独自性を重視したい企業に適した制度です。
どちらも福利厚生強化や採用競争力向上につながる
iDeCo+と企業型DCのいずれも、従業員の老後資金形成を支援することで、福利厚生の強化や採用競争力の向上に寄与します。
特に近年は、退職金制度の有無が求職者の企業選びに大きく影響するため、どちらの制度も人材確保や定着率アップに効果的です。
企業の規模や目的に応じて最適な制度を選ぶことで、従業員の満足度と企業の成長を両立させることができます。
メリット | iDeCo+ | 企業型DC |
---|---|---|
導入のしやすさ | ◎(小規模向き) | △(中~大規模向き) |
柔軟性 | △ | ◎ |
事務負担 | 小 | 大 |
福利厚生強化 | ○ | ○ |
従業員にとってのメリット
iDeCo+は企業からの追加拠出で資産形成が加速
iDeCo+を利用することで、従業員は自分の掛金に加えて企業からの追加拠出を受けられるため、資産形成のスピードが大きく加速します。
企業拠出分も運用益が非課税となり、老後資金を効率的に増やすことが可能です。
また、企業からのサポートがあることで、従業員の安心感やモチベーション向上にもつながります。
中小企業で働く従業員にとって、非常に魅力的な福利厚生制度と言えるでしょう。
企業型DCは制度として全従業員が加入できる安心感
企業型DCは、企業が制度として導入するため、原則として全従業員が加入対象となります。
これにより、従業員は自分で手続きをしなくても自動的に年金制度に加入できる安心感があります。
また、企業が掛金を負担する場合は、従業員の負担が軽減される点もメリットです。
大企業や従業員数の多い企業では、全社的な福利厚生としての一体感も生まれやすい制度です。
いずれも税制優遇が大きく老後資金形成に有利
iDeCo+も企業型DCも、掛金が全額所得控除の対象となるなど、税制優遇が非常に大きいのが特徴です。
運用益も非課税で、受取時にも一定の税制優遇が受けられるため、老後資金を効率的に積み立てることができます。
従業員にとっては、税負担を抑えながら将来に備えられる点が大きな魅力です。
どちらの制度も、長期的な資産形成に有利な仕組みとなっています。
- 企業からの拠出で資産形成が加速(iDeCo+)
- 全従業員が自動加入できる安心感(企業型DC)
- いずれも税制優遇が大きい
制度導入の流れ
自社の規模・目的に合った制度を選択する
退職金制度の導入を検討する際は、まず自社の規模や経営方針、従業員構成、福利厚生の目的を明確にしましょう。
小規模企業であれば導入や運用の手間が少ないiDeCo+が適していますが、従業員数が多い場合や独自の制度設計を希望する場合は企業型DCが選択肢となります。
また、従業員のニーズや将来の人材確保戦略も考慮し、最適な制度を選ぶことが重要です。
導入前には、他社事例や専門家の意見も参考にすると良いでしょう。
iDeCo+は国民年金基金連合会への申請が必要
iDeCo+を導入する場合、企業は国民年金基金連合会に対して申請手続きを行う必要があります。
申請書類の作成や就業規則の整備、従業員への説明など、事前準備をしっかり行いましょう。
申請が受理されると、企業は毎月の掛金を国民年金基金連合会に納付し、従業員のiDeCo口座に反映されます。
導入後も、従業員の加入状況や掛金額の管理を適切に行うことが求められます。
スムーズな導入のためには、専門家や金融機関のサポートを活用するのもおすすめです。
企業型DCは厚生労働省への規約届出が必要
企業型DCを導入する場合は、厚生労働省への規約届出が必要となります。
制度設計や運用規程の作成、従業員への説明会の実施など、準備すべき事項が多岐にわたります。
また、導入後も運営管理機関との連携や、定期的な制度見直しが求められるため、事務負担が大きくなりがちです。
その分、企業独自の制度設計や柔軟な運用が可能となるため、導入目的や企業規模に応じて慎重に検討しましょう。
専門家のアドバイスを受けながら進めると安心です。
- 自社の規模や目的に合った制度を選ぶ
- iDeCo+は国民年金基金連合会へ申請
- 企業型DCは厚生労働省へ規約届出
まとめ:iDeCo+と企業型DCを比較して最適な選択を
小規模企業はiDeCo+で低コストに導入可能
従業員100人以下の中小企業であれば、iDeCo+を活用することで、低コストかつ簡単に退職金制度を導入できます。
事務負担も少なく、従業員の資産形成をしっかりサポートできるため、福利厚生の充実や人材確保に大きな効果が期待できます。
まずは自社の現状を把握し、iDeCo+の導入を検討してみましょう。
一定規模以上なら企業型DCが柔軟性で有利
従業員数が多い企業や、独自の制度設計を重視したい場合は、企業型DCが適しています。
掛金水準や運用商品の選択肢が広がり、企業独自の福利厚生制度としてアピールしやすいのが特徴です。
ただし、導入や運用の手間・コストがかかるため、十分な準備と体制づくりが必要です。
どちらも人材確保・定着に効果的な制度
iDeCo+も企業型DCも、従業員の老後資金形成を支援することで、企業の魅力向上や人材の確保・定着に大きく貢献します。
自社の規模や目的に合わせて最適な制度を選び、長期的な企業成長と従業員満足度の向上を目指しましょう。
どちらの制度も、今後の中小企業経営において重要な役割を果たすことは間違いありません。
企業規模 | おすすめ制度 | 主な特徴 |
---|---|---|
100人以下 | iDeCo+ | 低コスト・簡単導入 |
101人以上 | 企業型DC | 柔軟な設計・大規模向き |