この記事は、厚生年金基金について知りたい方や、過去に加入していた方、または企業年金制度の違いを理解したい方に向けて書かれています。
厚生年金基金の仕組みや歴史、廃止の経緯、受給方法、税金の扱い、他の年金制度との違いまで、幅広くわかりやすく解説します。
これから年金を受け取る方や、制度の移行先が気になる方にも役立つ内容です。
厚生年金基金とは?
厚生年金基金とは、厚生年金保険法に基づいて設立された企業年金制度の一つです。
企業や業界団体が厚生労働大臣の認可を受けて設立し、国が行う老齢厚生年金の一部(報酬比例部分)の支給を代行し、さらに独自の上乗せ給付を行う仕組みでした。
この制度は、従業員の老後の生活保障を手厚くするために導入され、多くの企業で採用されていました。
しかし、財政悪化や積立不足などの問題から、現在は新規設立ができず、廃止の流れとなっています。
公的年金に上乗せする企業年金制度
厚生年金基金は、公的年金である厚生年金に上乗せして給付される企業年金制度です。
企業が従業員のために独自に設けるもので、国の年金だけでは不十分な老後資金を補う役割を担っていました。
この上乗せ部分は、企業ごとに給付内容や金額が異なり、従業員の福利厚生の一環として重視されてきました。
企業年金の中でも、特に厚生年金基金は公的年金と密接に連携していた点が特徴です。
厚生年金の一部を代行する仕組み
厚生年金基金の大きな特徴は、国が支給する厚生年金の一部(報酬比例部分)を企業が代行して支給する点です。
これを「代行部分」と呼び、基金が責任を持って運用・給付していました。
この代行部分に加え、企業独自の「上乗せ部分」も支給されるため、従業員は通常の厚生年金よりも多くの年金を受け取ることができました。
しかし、運用リスクや財政負担が企業側に大きくのしかかる仕組みでもありました。
かつて多くの企業が導入していた制度
厚生年金基金は、1966年の制度開始以降、特に1970年代から1990年代にかけて多くの大企業や業界団体で導入されました。
従業員の老後の安心を支えるため、福利厚生の一環として普及しましたが、バブル崩壊後の運用難や少子高齢化による財政悪化が進行。
2014年以降は新規設立が禁止され、現在はほとんどの基金が解散または他制度へ移行しています。
厚生年金基金と厚生年金の違い
厚生年金基金と厚生年金は、どちらも老後の生活を支える年金制度ですが、その役割や仕組みには大きな違いがあります。
厚生年金は国が運営する公的年金で、すべての会社員や公務員が加入します。
一方、厚生年金基金は企業や業界団体が設立し、厚生年金の一部を代行しつつ、独自の上乗せ給付を行う企業年金制度です。
この違いを理解することで、自分がどの年金を受け取れるのか、将来の資金計画に役立ちます。
公的年金と企業年金の役割の違い
公的年金である厚生年金は、国が運営し、すべての会社員や公務員が加入する基礎的な年金制度です。
一方、厚生年金基金は企業や業界団体が設立し、従業員のために追加で年金を給付する企業年金制度です。
公的年金は最低限の生活保障を目的としていますが、企業年金はそれを補完し、より豊かな老後を実現するためのものです。
このように、両者は役割や運営主体が異なります。
- 厚生年金:国が運営する公的年金
- 厚生年金基金:企業や業界団体が運営する企業年金
- 役割:厚生年金は基礎的保障、基金は上乗せ給付
基金は上乗せ+代行部分がある
厚生年金基金の特徴は、厚生年金の一部(報酬比例部分)を国に代わって支給する「代行部分」と、企業独自の「上乗せ部分」の2つの給付があることです。
この仕組みにより、従業員は通常の厚生年金よりも多くの年金を受け取ることができました。
しかし、代行部分の運用リスクや責任は基金側が負うため、財政が悪化すると企業や基金の負担が大きくなりました。
この点が、他の企業年金制度との大きな違いです。
給付内容 | 運営主体 | リスク負担 |
---|---|---|
厚生年金 | 国 | 国 |
厚生年金基金(代行+上乗せ) | 企業・基金 | 企業・基金 |
受け取れる金額や仕組みの違い
厚生年金基金に加入していた場合、通常の厚生年金に加えて、基金独自の上乗せ給付が受け取れます。
また、基金が代行していた部分は、基金の運用状況や規約によって受給額が変動することもありました。
一方、厚生年金は国が一律の基準で給付額を決定します。
このため、基金に加入していた人は、受給額や受給方法が通常の厚生年金加入者と異なる場合があります。
項目 | 厚生年金 | 厚生年金基金 |
---|---|---|
給付額 | 国の基準 | 国の基準+上乗せ |
受給方法 | 国から直接 | 基金または移行先から |
厚生年金基金の歴史と廃止の流れ
厚生年金基金は1966年に制度が始まり、1970年代から1990年代にかけて多くの企業で導入されました。
しかし、バブル崩壊後の運用難や少子高齢化による財政悪化、積立不足などの問題が顕在化し、2014年には新規設立が禁止されました。
その後、多くの基金が解散や他制度への移行を余儀なくされ、現在はほとんどの基金が存在しません。
この歴史と廃止の流れを知ることで、なぜ厚生年金基金が消滅したのかが理解できます。
1970年代に普及した背景
厚生年金基金が普及した背景には、企業が従業員の老後の生活を手厚く保障したいというニーズがありました。
高度経済成長期には、企業の福利厚生が重視され、優秀な人材確保のためにも企業年金制度の導入が進みました。
また、国の年金制度だけでは十分な老後資金が確保できないという課題もあり、企業が独自に上乗せ給付を行う厚生年金基金が広がりました。
2014年から新設が禁止に
バブル崩壊後の資産運用難や、少子高齢化による加入者減少、積立不足などの問題が深刻化したことで、厚生年金基金の財政は悪化しました。
その結果、2014年4月からは厚生年金基金の新規設立が法律で禁止され、既存の基金も解散や他制度への移行が進められることになりました。
これにより、厚生年金基金は事実上廃止の方向へと舵を切ることになりました。
運営難による解散・移行の増加
厚生年金基金は、運用リスクや財政負担が大きく、バブル崩壊後は多くの基金が資産運用に失敗し、積立不足に陥りました。
そのため、基金の解散や他の企業年金制度(確定給付企業年金や企業型確定拠出年金など)への移行が急増しました。
現在では、ほとんどの厚生年金基金が解散し、加入者の年金資産は国や企業年金連合会などに引き継がれています。
厚生年金基金に加入していた人はどうなる?
厚生年金基金が解散した場合、加入していた人の年金はどうなるのか不安に思う方も多いでしょう。
結論から言えば、基金が解散しても年金が消滅することはありません。
代行部分は厚生年金に戻り、上乗せ部分は企業年金連合会などに移管されるため、将来的に年金を受け取る権利は守られます。
ただし、受給方法や受給額、問い合わせ先が変わる場合があるため、移行先の確認が重要です。
代行部分は厚生年金に戻る
厚生年金基金が解散した場合、国が本来支給すべきだった厚生年金の代行部分は、厚生年金本体に戻されます。
これにより、加入者は通常の厚生年金と同じように国から年金を受け取ることができます。
この手続きは自動的に行われるため、特別な申請は不要ですが、念のため年金記録を確認しておくと安心です。
上乗せ部分は企業年金連合会などへ移行
基金独自の上乗せ部分(加算部分)は、基金が解散した場合、企業年金連合会や他の年金制度に移管されます。
移管先によって受給方法や問い合わせ先が異なるため、どこに移行されたかを確認することが大切です。
企業年金連合会は、複数の企業年金を一元的に管理する団体で、移行後も年金の受給権は守られます。
基金が解散しても年金は消えない
厚生年金基金が解散しても、これまで積み立ててきた年金資産や受給権が消滅することはありません。
代行部分は国が、上乗せ部分は企業年金連合会などが引き継ぐため、将来的に年金を受け取ることができます。
ただし、受給額や受給時期が変わる場合があるため、移行先からの案内や通知をしっかり確認しましょう。
厚生年金基金の受給方法
厚生年金基金に加入していた人が年金を受け取る方法は、主に老齢給付としての年金形式と、一時金としての受け取りの2つがあります。
受給開始年齢や受給額は、加入していた基金や移行先の制度によって異なります。
また、受給手続きや必要書類も制度ごとに異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
60歳以降に老齢給付として受給
多くの場合、厚生年金基金の年金は60歳以降に老齢給付として受け取ることができます。
受給開始年齢は、加入していた基金や移行先の制度によって異なる場合がありますが、原則として公的年金と同様に60歳または65歳からの受給が一般的です。
受給手続きは、移行先の団体や年金事務所で行います。
一時金として受け取れるケースもある
厚生年金基金の上乗せ部分については、一定の条件を満たす場合に一時金としてまとめて受け取ることも可能です。
たとえば、受給資格期間が短い場合や、受給開始前に退職した場合などが該当します。
一時金の受け取りには申請が必要なため、移行先の案内をよく確認しましょう。
受給開始年齢や額は制度ごとに異なる
厚生年金基金の受給開始年齢や受給額は、加入していた基金や移行先の制度によって異なります。
また、基金の運用状況や規約によっても変動することがあります。
自分がどの制度に移行したのか、受給条件や金額を事前に確認しておくことが大切です。
税金はどうなる?
厚生年金基金から受け取る年金や一時金には、税金がかかる場合があります。
年金形式で受け取る場合は雑所得として課税され、一時金形式の場合は退職所得控除の対象となります。
また、一定額を超える場合や他の所得と合算される場合は確定申告が必要になることもあるため、注意が必要です。
年金形式なら雑所得として課税
厚生年金基金の年金を年金形式で受け取る場合、その金額は雑所得として所得税の課税対象となります。
公的年金等控除の対象となるため、一定額までは非課税ですが、受給額や他の年金との合算によっては課税されることがあります。
毎年送付される源泉徴収票をもとに、必要に応じて確定申告を行いましょう。
一時金形式なら退職所得控除の対象
一時金として受け取る場合は、退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となります。
退職所得控除額は勤続年数などによって異なり、多くの場合、一定額までは非課税となります。
一時金の受け取り時には、税務署や移行先団体からの案内を確認し、必要な手続きを行いましょう。
確定申告が必要な場合もある
厚生年金基金からの年金や一時金の受け取りで、他の所得と合算して一定額を超える場合は、確定申告が必要になることがあります。
特に複数の年金を受給している場合や、退職所得が発生した場合は注意が必要です。
不明点があれば、税務署や年金事務所に相談しましょう。
厚生年金基金と他制度の違い
厚生年金基金は、他の企業年金制度や個人型年金(iDeCo)と比べて、仕組みやリスク負担、給付内容が大きく異なります。
ここでは、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、iDeCoとの違いを比較し、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
企業型確定拠出年金との比較
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が掛金を拠出し、従業員が自ら運用方法を選択する制度です。
運用成果によって将来の受給額が変動するため、リスクは加入者自身が負います。
一方、厚生年金基金は企業や基金が運用リスクを負い、一定の給付を約束する点が大きな違いです。
項目 | 厚生年金基金 | 企業型確定拠出年金 |
---|---|---|
運用リスク | 企業・基金 | 加入者本人 |
給付額 | 一定(規約による) | 運用成績次第 |
確定給付企業年金との比較
確定給付企業年金(DB)は、企業が将来の給付額をあらかじめ約束し、企業が運用リスクを負う制度です。
厚生年金基金と似ていますが、厚生年金の代行部分がない点が大きな違いです。
現在は、厚生年金基金から確定給付企業年金への移行が多く見られます。
項目 | 厚生年金基金 | 確定給付企業年金 |
---|---|---|
厚生年金の代行 | あり | なし |
運用リスク | 企業・基金 | 企業 |
iDeCoとの違い
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人が自ら掛金を拠出し、運用方法を選択する私的年金制度です。
運用リスクもリターンもすべて加入者本人が負う点が特徴です。
厚生年金基金は企業が主体となって運用・給付を行うため、iDeCoとは運営主体やリスク負担の点で大きく異なります。
項目 | 厚生年金基金 | iDeCo |
---|---|---|
運営主体 | 企業・基金 | 個人 |
運用リスク | 企業・基金 | 加入者本人 |
まとめ:厚生年金基金はどう理解すべきか
厚生年金基金は、かつて多くの企業で導入されていた企業年金制度ですが、現在は新規加入ができず、ほとんどの基金が解散または他制度へ移行しています。
加入していた方は、移行先や受給方法をしっかり確認し、将来の年金受給に備えることが大切です。
今後は確定拠出型や確定給付型の企業年金が主流となるため、制度の違いを理解しておきましょう。
すでに新規加入はできない制度
厚生年金基金は2014年以降、新規設立や新規加入ができなくなっています。
現在は既存の基金もほとんどが解散または他制度へ移行しているため、今後新たに加入することはできません。
今後は他の企業年金制度やiDeCoなどの活用が重要となります。
加入者は移行先を確認することが大切
過去に厚生年金基金に加入していた方は、自分の年金資産がどこに移行されたのか、受給方法や問い合わせ先を必ず確認しましょう。
企業年金連合会や年金事務所からの通知を見逃さず、将来の年金受給に備えることが大切です。
今後は確定拠出・確定給付型が主流に
厚生年金基金の廃止により、今後は確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)が企業年金の主流となります。
それぞれの制度の特徴やリスクを理解し、自分に合った年金準備を進めましょう。