この記事は、訪問介護・訪問看護事業所の経営者や採用担当者、人事担当者の方に向けて書かれています。
人材不足や離職率の高さに悩む介護業界で、企業型確定拠出年金(DC)を活用した採用・定着・福利厚生強化の方法を、わかりやすく解説します。
企業型DCの仕組みや導入メリット、実際の導入事例まで、現場で役立つ情報を網羅しています。
これからの介護経営に欠かせない“人が集まり辞めない職場づくり”のヒントをお届けします。
目次
訪問介護業界の採用が難しい現状

介護人材の不足と高い離職率
訪問介護業界では、慢性的な人材不足と高い離職率が大きな課題となっています。
高齢化社会の進展により介護サービスの需要は年々増加していますが、現場で働く人材の確保が追いついていません。
特に訪問介護は、利用者宅での個別対応や移動の負担、精神的なストレスも多く、他業種と比べても離職率が高い傾向にあります。
このような状況下で、いかにして人材を集め、長く働いてもらうかが経営の大きなテーマとなっています。
給与だけでは人が集まらない時代に
かつては給与水準の引き上げが採用対策の主流でしたが、現在はそれだけでは十分な人材確保が難しくなっています。
求職者は給与だけでなく、働きやすさや将来の安心、福利厚生の充実度も重視するようになりました。
特に介護業界では、他業種と比較して給与面での大幅な差別化が難しいため、福利厚生や職場環境の整備が採用競争力を左右します。
そのため、給与以外の魅力をいかにアピールできるかが、今後の採用成功のカギとなります。
「安心して働ける福利厚生」が採用のカギ
求職者が職場選びで重視するポイントの一つが「安心して長く働ける福利厚生」です。
特に退職金や年金制度など、将来の生活設計に直結する制度があるかどうかは、応募意欲や定着率に大きく影響します。
企業型確定拠出年金(DC)は、従業員の老後資産形成をサポートできる福利厚生として注目されています。
このような制度を導入することで、他社との差別化を図り、優秀な人材の確保・定着につなげることが可能です。
>>訪問介護に退職金制度は必要?人材定着に効く中退共・企業型DCの活用法
企業型確定拠出年金(DC)とは?

法人が掛金を拠出し、従業員が自ら運用する年金制度
企業型確定拠出年金(DC)は、企業が従業員のために毎月一定額の掛金を拠出し、従業員自身がその資金を運用して将来の年金資産を形成する制度です。
従業員は自分のライフプランやリスク許容度に合わせて運用商品を選択でき、原則60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。
この仕組みにより、従業員は自分の将来に向けて計画的に資産を増やすことができ、企業側も魅力的な福利厚生としてアピールできます。
掛金は全額損金算入、運用益は非課税
企業型DCの大きなメリットの一つは、企業が拠出する掛金が全額損金算入できる点です。
これにより、法人税の節税効果が期待できます。
また、従業員が運用して得た利益(運用益)は、受け取るまで非課税となるため、効率的に資産を増やすことが可能です。
この税制優遇は、企業・従業員双方にとって大きな魅力となっています。
退職金+老後資産形成の両立が可能
企業型DCは、従来の退職金制度と同様に退職時の一時金としても受け取れるほか、年金として分割受給することも可能です。
これにより、従業員は退職後の生活資金を計画的に準備でき、老後の安心感が高まります。
また、企業側も従業員の将来設計をサポートすることで、長期的な定着やモチベーション向上につなげることができます。
| 項目 | 企業型DC | 従来型退職金 |
|---|---|---|
| 運用方法 | 従業員が選択 | 企業が管理 |
| 税制優遇 | 掛金全額損金・運用益非課税 | 一部優遇 |
| 受取方法 | 年金・一時金選択可 | 一時金が主 |
なぜ訪問介護事業に企業型DCが向いているのか

介護業界でも法人であれば導入可能
企業型確定拠出年金(DC)は、株式会社や合同会社、医療法人、社会福祉法人など、法人格を持つ事業所であれば導入が可能です。
訪問介護や訪問看護の現場でも、法人であれば規模や業種を問わず導入できるため、他業界と同じように福利厚生の充実を図ることができます。
これにより、介護業界特有の人材不足や離職率の高さに対して、他業界と同等の待遇を用意できる点が大きな強みとなります。
従業員数1名からでもスタートできる
企業型DCは、従業員数が1名からでも導入できる柔軟な制度です。
小規模な訪問介護事業所や新規開設のステーションでも、早期に福利厚生を整えることが可能です。
従業員数が少ない事業所ほど、採用や定着のインパクトが大きく、企業型DCの導入は他社との差別化に直結します。
また、将来的に従業員が増えても、制度を拡張して運用できる点も魅力です。
社会保険加入事業所ならスムーズに導入可能
企業型DCの導入には、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していることが条件となります。
訪問介護事業所の多くは社会保険適用事業所であるため、導入手続きも比較的スムーズです。
社会保険と連動した福利厚生の一環として、従業員にとっても安心感のある制度設計が可能です。
このように、訪問介護事業所にとって企業型DCは導入しやすく、現場のニーズに合った制度といえます。
- 法人格があれば業種・規模問わず導入可能
- 従業員1名からでもOK
- 社会保険加入事業所なら手続きも簡単
採用における企業型DCの効果

求人票に「企業年金制度あり」と記載するだけで応募率アップ
求人票や採用ページに「企業型確定拠出年金(DC)制度あり」と明記することで、応募者の目に留まりやすくなります。
実際に、福利厚生が充実している職場は求職者からの人気が高く、応募数が増加する傾向があります。
特に介護業界では、年金や退職金制度がある事業所はまだ少数派のため、他社との差別化ポイントとして大きな効果を発揮します。
“長く働ける職場”として信頼感が高まる
企業型DCの導入は、従業員の将来を考えた職場づくりの証となります。
「長く働ける」「将来も安心できる」というイメージが定着しやすく、求職者や在職者の信頼感が高まります。
この信頼感は、採用だけでなく、職員の定着やモチベーション向上にもつながります。
結果として、安定した人材確保とサービス品質の向上が期待できます。
介護職員・サービス提供責任者・管理者など幅広く訴求できる
企業型DCは、介護職員だけでなく、サービス提供責任者や管理者、事務職員など、幅広い職種に適用できます。
職種や雇用形態に応じて柔軟に制度設計できるため、全従業員に対して公平な福利厚生を提供できます。
これにより、さまざまな人材層にアピールでき、採用の間口を広げることが可能です。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
| 応募数が少ない 福利厚生に不安 |
応募数増加 安心感・信頼感UP |
職員定着率を上げる仕組みとしてのDC

「働いた分が将来に残る」仕組みでモチベーションUP
企業型DCは、毎月の掛金が従業員個人の年金資産として積み立てられるため、「働いた分が将来の自分に返ってくる」という実感を持てます。
この仕組みは、日々の仕事へのモチベーション向上に直結し、職員が自分の将来を見据えて長く働く意欲を高めます。
また、資産運用の選択肢があることで、従業員自身が主体的に将来設計を考えるきっかけにもなります。
退職金と年金を兼ね備えた安心設計
企業型DCは、退職金と年金の両方の役割を果たすことができる制度です。
退職時に一時金として受け取ることも、年金として分割受給することも可能なため、従業員のライフプランに合わせた柔軟な選択ができます。
この安心設計が、職員の長期定着や将来不安の軽減につながり、結果として離職率の低下を実現します。
家庭や将来を見据えて長く働ける環境を提供
介護職員の多くは、家庭や子育て、老後の生活など将来に対する不安を抱えています。
企業型DCを導入することで、職員が安心して長く働ける環境を提供でき、家庭や人生設計を大切にしながらキャリアを築くことが可能になります。
このような職場環境は、従業員の満足度向上や口コミによる採用力強化にもつながります。
- 働いた分が将来の資産に
- 退職金・年金の両立
- 家庭や人生設計をサポート
企業型DC導入の流れ(訪問介護事業所向け)

1. 導入目的を明確にする(採用・定着・節税)
まずは、企業型DCを導入する目的を明確にしましょう。
主な目的としては「採用力の強化」「職員の定着率向上」「法人の節税対策」などが挙げられます。
目的を明確にすることで、制度設計や社内説明の際にも一貫性を持たせることができます。
2. 対象者(介護職員・事務職・管理職など)を整理
次に、企業型DCの対象者を整理します。
介護職員だけでなく、サービス提供責任者や管理者、事務職員など、どの職種・雇用形態まで含めるかを検討しましょう。
公平性や職場の一体感を重視する場合は、全従業員を対象とするのが理想的です。
3. 掛金額と制度内容を設計
掛金額や拠出方法、従業員の自己負担の有無など、制度の詳細を設計します。
事業所の収益状況や将来の見通しを踏まえ、無理のない範囲で設定することが重要です。
また、従業員の意見も取り入れながら、納得感のある制度設計を心がけましょう。
4. 金融機関・社労士と連携して導入
企業型DCの導入には、金融機関や社会保険労務士など専門家のサポートが不可欠です。
制度設計や手続き、従業員説明会の実施など、各ステップで専門家と連携しながら進めることで、スムーズな導入が可能となります。
信頼できるパートナー選びも成功のポイントです。
5. 職員説明会で制度を周知
導入が決まったら、職員説明会を開催し、制度の内容やメリット、運用方法などを丁寧に説明しましょう。
従業員が制度を正しく理解し、安心して利用できるようサポート体制を整えることが大切です。
質疑応答や個別相談の機会も設けると、より納得感が高まります。
| 導入ステップ | ポイント |
|---|---|
| 目的の明確化 | 採用・定着・節税 |
| 対象者の整理 | 全職種・雇用形態を検討 |
| 制度設計 | 掛金・内容を柔軟に |
| 専門家と連携 | 金融機関・社労士 |
| 職員説明会 | 丁寧な周知・サポート |
導入時のポイント

収益変動に合わせて掛金設定を柔軟にできる
企業型DCは、事業所の経営状況や収益の変動に応じて掛金額を柔軟に設定できる点が大きな特徴です。
景気や経営環境の変化に合わせて、無理のない範囲で掛金を調整できるため、経営リスクを抑えつつ福利厚生を維持できます。
また、掛金の増減は年度ごとに見直しが可能なため、長期的な経営計画にも対応しやすい制度です。
中退共との併用も可能
企業型DCは、中小企業退職金共済(中退共)など他の退職金制度と併用することも可能です。
これにより、従業員の退職金や老後資産形成の選択肢が広がり、より手厚い福利厚生を実現できます。
併用する場合は、各制度の特徴や税制優遇を活かしながら、最適なバランスで設計することが重要です。
経営者・管理者の退職金準備にも活用できる
企業型DCは、従業員だけでなく経営者や役員、管理者の退職金準備にも活用できます。
特に中小規模の訪問介護事業所では、経営者自身の老後資産形成が課題となることも多いため、企業型DCを活用することで経営者の将来設計もサポートできます。
経営者・従業員双方にメリットがある点は、制度導入の大きな魅力です。
- 掛金は経営状況に応じて調整可能
- 中退共など他制度との併用OK
- 経営者・役員の退職金準備にも最適
導入事例:訪問介護事業所の成功例

導入後に応募数が倍増
ある訪問介護事業所では、企業型DCを導入したことで求人票の魅力が大幅にアップし、応募数が従来の2倍以上に増加しました。
「企業年金制度あり」という一文が、求職者の安心感や信頼感につながり、他社との差別化に成功しています。
特に経験者や中堅層からの応募が増え、採用の質も向上しました。
経験豊富な介護職員の定着率が向上
企業型DC導入後、長年勤務しているベテラン職員の定着率が大きく向上した事例もあります。
将来の資産形成や退職金の安心感が、職員の離職防止やモチベーション維持に直結しています。
また、職員同士の信頼関係や職場の一体感も強まり、サービス品質の向上にもつながっています。
経営者の節税と退職金準備も同時に実現
企業型DCは、経営者自身の退職金準備や法人の節税対策としても有効です。
実際に、経営者が自ら制度に加入し、将来の資産形成を進めている事例も増えています。
法人税の節税効果と、経営者・従業員双方の安心感を同時に得られる点が、導入の決め手となっています。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
| 応募数が少ない 離職率が高い 経営者の退職金準備が不十分 |
応募数倍増 定着率向上 経営者の退職金・節税も実現 |
まとめ:企業型DCで“人が集まり辞めない訪問介護事業所”へ

採用・定着・節税の三拍子がそろう福利厚生
企業型確定拠出年金(DC)は、採用力の強化、職員の定着率向上、法人の節税対策という三拍子がそろった福利厚生制度です。
訪問介護・看護業界の人材確保や経営安定に大きく貢献します。
今後の介護経営において、企業型DCの導入はますます重要性を増していくでしょう。
安心して働ける環境がサービス品質を高める
従業員が安心して長く働ける環境を整えることは、サービスの質や利用者満足度の向上にも直結します。
企業型DCをはじめとした福利厚生の充実は、職員のやる気やチームワークを高め、事業所全体の成長を後押しします。
企業型DCは介護経営の新しいスタンダード
企業型DCは、今や大手企業だけでなく中小規模の訪問介護事業所でも導入が進んでいます。
人材確保・定着・経営安定のための新しいスタンダードとして、ぜひ積極的に活用してみてください。
これからの介護経営において、企業型DCは欠かせない選択肢となるでしょう。







