この記事は、土木工事業を営む経営者や人事担当者、または現場で働く技能者の方々に向けて書かれています。
土木工事業界における退職金制度の現状や必要性、導入できる制度の種類、そして建退共・中退共などの具体的な活用方法について、分かりやすく解説します。
人材確保や経営の安定化を目指す方にとって、退職金制度の整備がどのようなメリットをもたらすのか、実践的な情報を提供します。
目次
土木工事業における退職金制度の現状
土木工事業界では、従業員の雇用形態や現場ごとの働き方が多様であるため、退職金制度の導入状況もさまざまです。
特に建設業退職金共済(建退共)への加入が主流となっていますが、すべての事業者が加入しているわけではありません。
一方で、退職金制度が未整備の企業も多く、従業員の将来への不安や離職の要因となるケースも見受けられます。
このような現状を踏まえ、業界全体で退職金制度の重要性が再認識されています。
建退共への加入が主流だが未加入事業者も多い
建退共は国が支援する建設業専用の退職金共済制度であり、多くの土木工事業者が利用しています。
しかし、すべての事業者が加入しているわけではなく、特に小規模事業者や一人親方などでは未加入のケースも少なくありません。
未加入の場合、従業員の退職金が用意されていないことが多く、他社との福利厚生の差が生じやすい状況です。
このため、建退共への加入促進が業界全体の課題となっています。
技能者の高齢化と若手不足が深刻化
土木工事業界では、技能者の高齢化が進行しており、若手人材の確保が大きな課題となっています。
退職金制度が整備されていない企業では、将来への不安から若手の入職が進まず、ベテラン技能者の引退による技術継承の断絶も懸念されています。
このような人材構造の変化に対応するためにも、退職金制度の導入・充実が求められています。
福利厚生の差が採用・定着に影響している
退職金制度の有無は、求職者が企業を選ぶ際の大きな判断材料となっています。
福利厚生が充実している企業は、採用活動で有利になるだけでなく、従業員の定着率向上にもつながります。
逆に、退職金制度がない場合は、優秀な人材の流出や離職率の増加を招くリスクが高まります。
そのため、他社との差別化や人材確保の観点からも、退職金制度の整備が重要です。
なぜ土木工事業に退職金制度が必要なのか
土木工事業において退職金制度が必要とされる理由は多岐にわたります。
長期的な人材確保や技術継承、従業員の安心感の醸成、そして企業の信頼性向上など、経営面・人材面の双方で大きなメリットがあります。
特に、現場で長年培われた技能やノウハウを次世代に引き継ぐためには、従業員が安心して長く働ける環境づくりが不可欠です。
長期勤務者を確保して技術継承を進めるため
土木工事業では、現場経験や熟練した技能が非常に重要です。
退職金制度があることで、従業員は長期的なキャリア形成を見据えて働くことができ、結果として技術やノウハウの継承がスムーズに進みます。
また、長期勤務者が増えることで、現場の安定運営や品質向上にもつながります。
このように、退職金制度は企業の持続的成長に欠かせない要素です。
安心して働ける職場づくりが離職防止につながる
退職金制度は、従業員にとって将来の生活設計を支える大きな安心材料となります。
特に土木工事業のような体力的負担の大きい業界では、将来への不安が離職の一因となりがちです。
退職金制度を整備することで、従業員の定着率が向上し、離職防止に直結します。
結果として、企業の人材コスト削減や現場力の強化にも寄与します。
優良事業者としての信頼性が高まる
退職金制度を導入している企業は、社会的な信頼性が高まります。
公共工事の入札や元請企業との取引においても、福利厚生の充実度が評価基準となることが多く、退職金制度の有無が企業イメージに直結します。
また、従業員やその家族からの信頼も得やすくなり、地域社会における企業価値の向上にもつながります。
土木工事業で導入できる退職金制度の種類
土木工事業で導入できる退職金制度には、建設業退職金共済(建退共)、中小企業退職金共済(中退共)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、生命保険を活用した退職金積立など、複数の選択肢があります。
それぞれの制度には特徴やメリット・デメリットがあり、事業規模や従業員構成に応じて最適な制度を選ぶことが重要です。
以下で各制度の概要を詳しく解説します。
建設業退職金共済(建退共)
建退共は、建設業に従事する労働者のために国が設けた退職金共済制度です。
事業主が従業員の働いた日数に応じて掛金を納付し、共済手帳に証紙を貼付して積み立てます。
現場ごとに雇用されることが多い建設業の実態に合わせて設計されており、転職や現場移動があっても退職金が通算されるのが大きな特徴です。
中小企業退職金共済(中退共)
中退共は、建設業を含む中小企業全般を対象とした国の退職金共済制度です。
月額5,000円から掛金を設定でき、事業主が毎月掛金を納付します。
建退共と異なり、日数ではなく月単位で積み立てるため、事務職や管理職など現場作業以外の従業員にも適用しやすいのが特徴です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型DCは、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員が自ら運用方法を選択する年金制度です。
退職金の積立と老後資金の準備を同時に行えるため、近年注目が高まっています。
掛金や運用方法の柔軟性が高く、幹部社員や管理職向けの退職金制度としても活用されています。
生命保険を活用した退職金積立
生命保険を活用した退職金積立は、法人契約の生命保険を利用して退職金原資を準備する方法です。
保険商品によっては、解約返戻金を退職金として支給できるため、経営者や役員の退職金準備にも適しています。
税制上のメリットや資金計画の柔軟性もあり、他の制度と併用するケースも増えています。
| 制度名 | 対象 | 積立方法 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 建退共 | 現場作業員 | 日数ごと証紙貼付 | 国の建設業専用制度 |
| 中退共 | 全従業員 | 月額掛金 | 中小企業全般対象 |
| 企業型DC | 正社員・幹部 | 企業拠出+運用 | 運用益も期待 |
| 生命保険 | 経営者・役員 | 保険料積立 | 解約返戻金活用 |
建退共の特徴とメリット
建退共は、建設業界で働く技能者のために国が設けた退職金共済制度です。
現場ごとに雇用されることが多い建設業の実態に合わせて設計されており、転職や現場移動があっても退職金が通算されるのが大きな特徴です。
また、掛金は全額損金算入できるため、事業主にとっても節税効果が期待できます。
以下で、建退共の主な特徴とメリットを詳しく解説します。
国が支援する建設業専用の退職金制度
建退共は、国が法律に基づいて運営する建設業専用の退職金共済制度です。
建設業を営む事業主であれば、規模や法人・個人を問わず加入できます。
国の制度であるため、信頼性が高く、従業員にも安心感を与えることができます。
また、公共工事の入札要件として建退共加入が求められる場合もあり、事業拡大にも有利です。
現場ごとに共済手帳へ証紙を貼付して積立
建退共では、従業員が働いた日数に応じて共済手帳に証紙を貼付し、退職金を積み立てます。
現場ごとに雇用されることが多い建設業の実態に合わせており、複数の事業者で働いた場合でも退職金が通算される仕組みです。
このため、従業員は転職や現場移動があっても安心して働き続けることができます。
掛金は全額損金算入で節税効果あり
建退共の掛金は、事業主が全額負担し、全額損金算入が認められています。
そのため、企業の税負担を軽減しながら、従業員の退職金を効率的に積み立てることが可能です。
また、掛金は1人1日あたり320円(2021年10月現在)と明確で、経営計画も立てやすいのが特徴です。
- 国の制度で信頼性が高い
- 現場移動・転職でも退職金が通算
- 掛金全額損金算入で節税効果
中退共・企業型DCの活用

建退共以外にも、中退共や企業型DCを活用することで、より柔軟な退職金制度の設計が可能です。
特に法人化している建設会社では、建退共と中退共・企業型DCを併用することで、現場作業員から事務職・幹部社員まで幅広くカバーできます。
それぞれの制度の特徴を理解し、従業員の職種や役割に応じて最適な組み合わせを検討しましょう。
法人化している建設会社なら併用も可能
法人化している建設会社では、建退共と中退共・企業型DCを併用することで、
現場作業員だけでなく事務職や管理職、幹部社員まで幅広く退職金制度を整備できます。
これにより、全従業員の福利厚生を充実させ、企業全体の人材定着力を高めることが可能です。
掛金を柔軟に設定できる(中退共は月5,000円~)
中退共や企業型DCは、掛金を従業員ごとに柔軟に設定できるのが大きな特徴です。
中退共の場合、月額5,000円から掛金を選択でき、企業の財務状況や従業員の役職に応じて調整が可能です。
企業型DCも同様に、掛金や運用方法を個別に設定できるため、幹部社員や管理職のモチベーションアップにもつながります。
幹部社員や管理職の退職金制度として有効
中退共や企業型DCは、特に幹部社員や管理職の退職金制度として有効です。
現場作業員向けの建退共と併用することで、全従業員のキャリアや役割に応じた退職金制度を構築できます。
これにより、企業の組織力強化や人材の長期定着にも大きく貢献します。
退職金制度導入のメリット

土木工事業で退職金制度を導入することは、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらします。
採用力や定着率の向上、技能者のモチベーションアップ、さらには経営者や役員の退職金準備にも活用できるなど、経営基盤の強化に直結します。
ここでは、退職金制度導入による具体的なメリットを解説します。
採用力・定着率の向上
退職金制度が整備されている企業は、求職者からの信頼が高まり、採用活動で有利になります。
また、従業員が将来に安心感を持てるため、長期的な定着にもつながります。
結果として、優秀な人材の確保と離職率の低下を実現でき、企業の競争力向上に寄与します。
技能者のモチベーションアップ
退職金制度は、従業員の働く意欲やモチベーションを高める効果があります。
長く勤めるほど退職金が増える仕組みは、日々の業務への取り組み姿勢にも良い影響を与えます。
特に土木工事業のような専門性の高い現場では、技能者のやる気が現場の品質や安全にも直結します。
経営者・役員の退職金準備にも活用可能
退職金制度は、従業員だけでなく経営者や役員の退職金準備にも活用できます。
生命保険や企業型DCなどを利用することで、経営者自身の老後資金や事業承継時の資金準備にも役立ちます。
これにより、経営の安定化や次世代へのスムーズなバトンタッチが可能となります。
- 採用力・定着率の向上
- 技能者のモチベーションアップ
- 経営者・役員の退職金準備
退職金の導入の流れ

退職金制度を導入する際は、目的の明確化から制度設計、運用開始まで段階的なプロセスが必要です。
自社の経営方針や従業員構成に合わせて、最適な制度を選択し、専門家と連携しながら進めることが成功のポイントです。
以下に、導入の一般的な流れを紹介します。
退職金制度導入の目的を明確にする
まずは、なぜ退職金制度を導入するのか、その目的を明確にしましょう。
人材確保や定着率向上、経営者の退職金準備など、目的によって最適な制度や設計が異なります。
経営陣や人事担当者でしっかり話し合い、導入の方向性を定めることが重要です。
建退共・中退共・企業型DCを比較検討
次に、建退共・中退共・企業型DCなど、複数の退職金制度を比較検討します。
従業員の職種や雇用形態、企業の財務状況に応じて、最適な組み合わせを選びましょう。
それぞれの制度の特徴やメリット・デメリットを把握することが大切です。
| 制度名 | 対象従業員 | 掛金設定 | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| 建退共 | 現場作業員 | 日数ごと | 国の制度・通算可能 |
| 中退共 | 全従業員 | 月額 | 柔軟な設計 |
| 企業型DC | 正社員・幹部 | 個別設定 | 運用益も期待 |
社労士・金融機関と連携して制度を設計する
退職金制度の設計や運用には、専門的な知識が必要です。
社会保険労務士や金融機関と連携し、法令遵守や税務面も考慮した制度設計を行いましょう。
導入後の運用や管理体制についても、専門家のアドバイスを受けることで安心して進められます。
退職金の導入時の注意点

退職金制度を導入する際には、雇用形態ごとの設計や証紙の管理、掛金負担のバランスなど、いくつかの注意点があります。
これらを事前に把握し、適切な運用体制を整えることが、制度の定着と従業員の満足度向上につながります。
現場作業員・事務職など雇用形態ごとの設計が必要
土木工事業では、現場作業員と事務職・管理職で雇用形態や働き方が異なります。
それぞれに適した退職金制度を設計し、全従業員が公平に恩恵を受けられるようにしましょう。
複数の制度を併用する場合は、重複や漏れがないよう注意が必要です。
証紙の貼り忘れ・管理ミスを防止する仕組みを作る
建退共を利用する場合、証紙の貼り忘れや管理ミスが退職金額に大きく影響します。
現場ごとにしっかりと証紙を管理し、従業員にも記録の確認を徹底しましょう。
定期的なチェック体制や管理担当者の配置も有効です。
掛金負担を無理のない範囲で設定する
退職金制度の掛金は、企業の財務状況に合わせて無理のない範囲で設定することが大切です。
高額な掛金設定は経営を圧迫するリスクがあるため、長期的な視点でバランスを取りましょう。
必要に応じて専門家に相談し、最適な掛金水準を決定してください。









