農林漁業団体職員退職給付金と企業型確定拠出年金(DC)は、いずれも従業員の老後資金や退職金を準備する制度ですが、その仕組みと責任の所在が大きく異なります。
まず、制度の性格から見ると、農林漁業団体職員退職給付金は「確定給付型」の仕組みです。団体(JA・森林組合・漁協など)が毎月掛金を拠出し、その掛金を共済会などが運用・管理し、退職時に「給付額(退職金)」があらかじめ算定された基準に基づいて支給されます。
つまり、将来の給付額がある程度「確定」しており、運用リスクは事業主や共済会側が負います。
一方、企業型確定拠出年金(DC)は「拠出額を確定する制度」であり、会社が拠出する掛金額は決まっていますが、その掛金をどのように運用して増やすかは従業員本人の責任です。運用結果によって将来の受取額が変動し、増えることもあれば減ることもあります。つまり、DCは「運用リスクを加入者が負う制度」といえます。
次に、運営主体と加入対象の違いです。農林漁業団体職員退職給付金は、JAや森林組合、漁協など特定の業界団体の職員だけが対象で、各地域の共済会や全国組織が運営しています。加入は団体単位であり、一般企業の従業員は利用できません。対して、企業型DCは業種を問わず、どの企業でも導入可能です。中小企業でも制度を設けやすく、社員の福利厚生制度として広く普及しています。
税制面では、どちらの制度も掛金が損金算入でき、事業主にとって節税効果があります。従業員が受け取る際も「退職所得」または「年金所得」として扱われ、税負担は軽減されます。ただし、DCの場合は掛金拠出時から運用益まで非課税で、60歳以降の受給時に初めて課税される「課税繰延制度」となっており、長期運用ほど税制上のメリットが大きくなります。
運用の自由度にも違いがあります。農林漁業団体職員退職給付金は共済会が一括運用するため、個人が運用を選択することはできません。その分、安定的な利回りを確保することを重視しています。
これに対し、企業型DCでは従業員自身が運用商品(定期預金・投資信託・保険商品など)を選択でき、自分のリスク許容度に応じた資産形成が可能です。運用次第では退職金を大きく増やすこともできる一方、運用を誤ると元本を割るリスクもあります。
リスク分担の観点で整理すると、農林漁業団体職員退職給付金は「事業主・共済会側が責任を持つ制度」、企業型DCは「従業員が自己責任で運用する制度」となります。前者は安定志向、後者は自己運用による資産形成志向です。
まとめると、農林漁業団体職員退職給付金は「業界団体の職員向け・確定給付型で安定性重視」、企業型DCは「すべての企業に導入可能・確定拠出型で運用成果重視」という違いがあります。安定性を重視するなら前者、将来の資産形成と税制優遇を重視するなら後者が向いています。
>>農林漁業団体職員退職給付金はどんな退職金制度ですか?
>>企業型確定拠出年金にだまされるな!仕組み・リスク・対策を徹底解説