確定拠出年金(DC)制度は、加入者自身が運用商品を選択し、老後資産を形成していく仕組みです。そのため、加入者が投資や金融商品の基本知識を理解していなければ、元本保証商品ばかりを選んで利回りがほとんど得られなかったり、逆にリスクの高い商品に偏ってしまったりする恐れがあります。
こうした状況を防ぐために、企業には従業員に対して投資教育を行う「努力義務」が課せられています。
この「努力義務」という点が重要です。法律上、企業は確定拠出年金法に基づき投資教育を実施するよう求められていますが、教育を怠ったからといって直ちに罰金や行政処分といった直接的な罰則が科されるわけではありません。つまり、義務ではあるものの罰則規定はなく、教育の実施状況は各企業の自主性に任されているのが現状です。
しかし、だからといって教育を軽視することは大きなリスクにつながります。投資教育を怠った場合、従業員が正しい知識を持たずに運用判断を誤り、将来の資産形成に失敗したとき、「会社が十分な教育をしなかったせいだ」と責任追及される可能性があります。法的罰則がなくても、労使トラブルや信頼低下を招くリスクがあるため、実務上は「罰則以上に怖い結果」につながりかねません。
また、金融庁や厚生労働省は、企業に対して定期的かつ継続的な投資教育の実施を推奨しており、ガイドラインでも「入社時・制度導入時だけでなく、ライフステージに応じて行うことが望ましい」としています。企業年金連合会などが教育プログラムを提供しているのも、この努力義務を支援するためです。
つまり、直接的な罰則はないものの、教育を行わないことで制度導入の意義が失われ、従業員が不利益を被る可能性があります。その結果として会社の責任問題に発展したり、制度が形骸化して従業員から不満が出たりする恐れがあるのです。
一方で、しっかりと投資教育を行えば、従業員は制度を理解し、自分のライフプランに合った資産形成ができるようになります。会社にとっても「福利厚生の充実」という強いアピールポイントになり、人材の採用や定着にプラスの効果をもたらします。
まとめますと、確定拠出年金の投資教育を怠っても法律上の罰則はありません。しかし、従業員に十分な教育を行わないことは信頼関係を損ない、制度の価値を下げる結果につながります。企業にとっては「やらなくてもいい」ものではなく、「積極的に取り組むことで制度の効果を最大化する必須要素」と考えるべきでしょう。