建設業退職金共済制度(建退共)では、事業主が労働者の就労日数に応じて共済証紙を購入し、共済手帳に貼付することで退職金を積み立てる仕組みになっています。原則として、建設現場で労働者が1日働けば、その日数分の証紙を購入することが求められます。
しかし、実務上はすべての日に証紙を貼るわけではありません。労働者が欠勤した場合や建設業務以外の作業に従事した場合、あるいは休業日や研修日で現場に出ていない場合などには証紙を購入しないことが認められています。その際に必要となるのが「証紙を購入しなかった理由書」です。
参考:建設業退職金共済(独立行政法人 勤労者退職金共済機構)
この理由書は、なぜ証紙を購入しなかったのかを明確にするための書類であり、事業主が作成して保管、または必要に応じて建退共本部や取扱機関に提出します。監査や調査が行われた際には、制度を適切に運用していることを示す証拠として重要な役割を果たします。
理由書には、労働者の氏名、対象日、証紙を購入しなかった理由、事業主名と押印を記載するのが基本です。内容は簡潔で構いませんが、「〇月〇日は欠勤のため証紙を購入していません」「〇月〇日は倉庫作業に従事したため対象外です」など、具体的で明確な説明が必要です。
このように記録を残しておけば、後に労働者から「証紙が貼られていないのは不正ではないか」と疑念を持たれることを防ぐことができますし、会社にとっても安心です。
ただし、こうした仕組みは建退共が紙の証紙と手帳によって運営されていることに由来しており、証紙の購入や貼付、理由書の作成といった事務作業は経理担当者や現場管理者にとって負担になりがちです。理由書を整備しなければ、購入漏れとみなされて不利益を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
一方で、このような煩雑さを避けられる仕組みとして、近年では企業型確定拠出年金(企業型DC)が注目されています。企業型DCでは、会社が拠出した掛金が金融機関に直接積み立てられ、従業員ごとの口座で管理されます。そのため、証紙を購入したり理由書を作成したりする必要はありません。
掛金は全額損金算入が認められ、運用益も非課税で、受け取り時にも税制優遇があるため、資産形成と節税を同時に実現できるのが大きな魅力です。
まとめますと、建退共では証紙を購入しない場合に理由書を作成することが求められ、労使双方の信頼関係を守るためにも正しい記録が欠かせません。しかし、長期的に考えると、このような事務的な負担を軽減し、より効率的で安心感のある退職金制度を運用するためには、企業型DCを検討することも有効な選択肢と言えるでしょう。
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