小規模企業共済とiDeCoは、どちらも老後資金づくりに役立つ制度であり、掛金が全額所得控除となる点では共通しています。ただし、利用できる対象者や制度の性格に違いがあるため、「どちらがいいか」は状況によって変わります。
まず、小規模企業共済は経営者や個人事業主のための「退職金制度」です。掛金は月1,000円から7万円まで拠出でき、全額所得控除。廃業や退職時に退職金として受け取れる仕組みで、受取時には退職所得控除や公的年金控除が使えます。
さらに、掛金の範囲内で低利融資が受けられる「貸付制度」も備えているため、事業資金のバックアップにもなります。経営者やフリーランスにとっては、自分の退職金を国の制度で準備できる安心感が大きなメリットです。
一方、iDeCoは自分で投資信託や定期預金を選んで積み立てる「個人型年金制度」です。掛金は全額所得控除、運用益も非課税、受け取り時も優遇があります。ただし、原則60歳まで引き出せないという制約があり、資金の流動性は低いのがデメリットです。
ここで重要なのが、すでに企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している会社の場合です。企業型DCは会社が掛金を拠出し、従業員や役員が自分で運用商品を選ぶ制度で、税制メリットはiDeCoと同じく「掛金全額所得控除+運用益非課税+受取時優遇」があります。つまり、税制上はほぼ同じでありながら、掛金の上限枠は企業型DCの方が大きく設定されているため、効率的に老後資金を積み立てられるのです。
そのため、もし企業型DCが利用できる環境にあるなら、まずは企業型DCを優先して活用するのが賢明 です。DCは会社拠出で始められるケースも多く、給与天引きで自動的に積み立てられるため手間もかかりません。iDeCoは個人が負担する制度であり、企業型DCと併用する場合は上限額が制限されるため、枠をフルに活用できないこともあります。
結論として、経営者や個人事業主であれば小規模企業共済を基盤にし、従業員として企業型DCがあるならそちらを最優先、さらに余力があればiDeCoを追加する、という順序が最も効率的です。小規模企業共済で安定を確保しつつ、DCで節税と運用益を最大化、その上でiDeCoを補完的に利用するのが、理想的な老後資金戦略といえるでしょう。