中小企業退職金共済制度(中退共)は、国が運営する安心感のある退職金制度であり、事業主が掛金を拠出して従業員の退職金を準備できる仕組みです。しかし、この制度には導入を検討する際に理解しておくべきデメリットがいくつか存在します。
まず大きなデメリットは、掛金の負担が継続する点です。一度加入すると、経営が苦しい時でも原則として毎月の掛金を払い続けなければなりません。掛金の減額や一時停止は可能ですが、長期にわたって滞納すると制度自体の継続が困難になり、従業員に十分な退職金を準備できないリスクがあります。中小企業にとっては毎月の固定費となるため、資金繰りへの影響を無視できません。
次に、勤続年数が短い従業員への退職金が少ないことです。掛金納付月数が12か月未満の場合には退職金が支給されませんし、数年程度で辞めてしまった場合も受け取れる額はごくわずかです。そのため、従業員から「期待していたほど退職金がもらえない」という不満が出る可能性があり、企業としては十分な説明が求められます。
また、予定利率の低下リスクも見逃せません。中退共は安全性を重視した運用を行っているため、大きな損失は出にくい反面、利回りも高くありません。低金利が続く中では利息が以前より少なくなり、掛金総額に対して思ったほど増えないという結果になりがちです。長期的に見ても、民間の確定拠出年金のように積極的に資産を増やすことは難しいでしょう。
さらに、制度の柔軟性が低い点もデメリットです。掛金は月額5,000円から30,000円までの範囲でしか設定できず、細かい設計を会社独自に行うことはできません。従業員の処遇や会社の人事制度に合わせた自由度がなく、オーダーメイド型の退職金制度に比べると物足りなさを感じる企業もあるでしょう。
そして見落とされがちなのが、経営者や役員が必ずしも加入できるわけではないという点です。中退共の原則は「従業員のための制度」であり、法人の代表者や役員は加入できません。個人事業の場合も、事業主本人は対象外で、専従者として働く家族についても一定の制限があります。
つまり、経営者自身の退職金準備には中退共を使えないことが多く、社長や役員は別の方法(小規模企業共済や企業型確定拠出年金など)で資産形成を考える必要があります。
結論として、中退共のデメリットは「掛金負担の継続」「勤続年数が短いと不利」「利回りが低い」「制度の柔軟性が乏しい」ことに加えて、「経営者や役員が加入できない場合がある」ことです。導入の際には、従業員にとってのメリットと同時に、経営者自身の老後資金対策をどうするかも併せて考える必要があります。