企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入することで、厚生年金そのものが減額されることはありません。厚生年金は、給与や賞与といった「標準報酬月額」に基づいて計算され、企業型DCの掛金はその算定の対象外だからです。したがって、企業型DCに加入しても「厚生年金の支給額が直接減る」ということはありません。
ただし、企業型DCの制度設計によっては、間接的に将来の厚生年金額に影響する可能性があります。それは「給与の一部を掛金に振り替える形(選択制DC)」を導入している場合です。選択制DCでは、従業員が給与として受け取るか、掛金として積み立てるかを選択できる仕組みです。
このとき、給与から掛金に振り替えた分は課税対象から外れ、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」にも含まれません。
結果として、給与が下がった扱いとなり、支払う社会保険料は安くなる一方で、将来受け取る厚生年金の基礎額もわずかに低くなる可能性があります。つまり「選択制」の場合は、節税メリットと社会保険料削減の裏返しとして、厚生年金や健康保険の給付額が減るリスクがあるのです。
一方で、会社が追加で掛金を拠出する「追加拠出型」の企業型DCであれば、従業員の給与や標準報酬月額には影響がなく、厚生年金額も変わりません。この場合、純粋に退職金・老後資金の上乗せとして機能するため、デメリットはほとんどないといえます。
整理すると、
- 通常の企業型DC(追加拠出型):厚生年金には影響しない。
- 選択制DC(給与振替型):社会保険料が下がる分、厚生年金や健康保険給付が将来少し減る可能性あり。
したがって、「企業型確定拠出年金は厚生年金が減るのか?」という問いに対しては、「制度の形による」というのが正しい答えです。一般的な企業負担型では減らず、給与振替型の選択制を導入している場合には、将来の厚生年金額がわずかに減る可能性がある、という点を理解しておくことが重要です。